Research Abstract |
今年度は, まず, 前年に行ったブラウワーに関する研究について数学的細部を詰めた. ブラウワーのバー定理の証明(1927年)は, 数学的ではない仮定(以下「基本仮定」)に依存しているとしてこれまで扱われてきたが, 現代的証明論の道具立てであるΩ規則で解釈できるのではないか, というのが基本的なアイディアであった. 今年度は, Ω規則を実際に定式化し, バー帰納法の埋め込み定理の証明を与えた. この証明を反省することで, ブラウワーが基本仮定を置いた理由が, Ω規則における非可述性によって説明できることを確認した. 以上の結果を英語論文にまとめ, 査読付きの国際誌に投稿し現在査読中である. なお, このアイディアのスケッチは, 今年度『哲学論叢』から既に出版されている. さらに数学の哲学やブラウワー研究の専門家にも回覧し, コメントをもらった. この結果は, World Congress of Philosophy(アテネ), Functions, Proofs, Construction (チュービンゲン)などの, 哲学の査読付き国際会議でも発表された. また, このΩ規則について, 正規化定理や崩壊定理などの証明論的性質が(一定の自然な条件の元で)成り立つことを示した. スタンフォード大学ミンツ教授との共同研究については, 既に査読付き国際誌に投稿してある論文を仕上げるべくe-mailで議論を重ねた. 現在のところ, ほぼ論文は仕上がっており, 近日中に改訂版を再び投稿する予定である. 以前の査読者のコメントによると, いくつかの点を直せばアクセプト, ということだったので来年度の早い段階で論文は受理されると思われる. 高橋優太氏(慶磨義塾非常勤講師)との共著論文「ゲンツェンを読む-三つの無矛盾性証明の統一的解釈-」が今年度の『科学基礎論研究』から出版されたが, 高橋氏とはそのあとも共同研究を続けており, 今後はゲンツェンの1935年の証明にもさらなる光を当てる形で, (今回の論文で分析した)1936年の証明を再構成する計画が進行中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の目標, すなわちブラウアーのバー帰納法の証明をΩ規則によって定式化し, 基本仮定がおかれた理由を確かめることができたことは大きな収穫といえる. 国際会議で発表した結果, 予想外に好評であったことも特筆すべき事柄であろう、また, 高橋氏との共同研究も継続しており, こちらも進展がみられた. 他方で, 以前から取り組んでいるミンツ教授との共著論文を終えることができなかったため, 次年度の早い段階でのアクセプトを目指す. 以上の理由により, おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
上にも述べた通り, まずはミンツ教授との共著論文のアクセプトを目指す。ほぼ論文は仕上がっており, 細かいところの合意と互いの多忙はあるものの, 来年度の早い段階でのアクセプトは達成できるように見込んでいる. よってこの件に最優先で取り組む. また, ブラウワーのバー帰納法の研究については, 数学者・論理学者からも興味を持たれているため数学の会議でも来年度は発表していきたい. また, そもそもの目標であった, バー帰納法の証明論的解析を完成させたい. 既にプレプリントは執筆したものの, 細部を諸める必要がある. 必要に応じて, 専門家のアドバイスを仰ぐことも考えている.
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