Research Abstract |
本研究は,集団内,間の地位格差が存在する状況での外集団卑下・攻撃の生起メカニズムを検討することを目的としている。この目的を達成するため,今年度は2つの調査を実施した。 まず,研究1では,社会的支配志向性(Soclal Dominance Orientation:以下,SDO)を測定するための新たな尺度の作成を行った。SDOとは,集団間の平等または階層的な関係性についての個人の選好や欲求のことを示しており,差別や偏見の予測因の一つと考えられている。そのため,集団間,集団内の地位に応じてSDOが変化し,それが外集団卑下・攻撃へとつながると予測した。しかし,SDOは,環境の影響を受けにくいことを前提としているため,今回,モデルで提唱したような地位環境による変化を想定した概念とは厳密には異なる。そこで,本研究が想定する概念として,集団間階層に関するイデオロギーについて,個人が実際に採用した程度を「集団間階層に対する価値観」と定義し,SDO尺度を参考に独自に尺度を作成した。Web調査を行い,20~69歳の社会人1092名を対象に,作成した尺度に回答を求めた。因子分析の結果,階層拡大価値と階層縮小価値からなる2因子構造が示され,同時に尺度の妥当性と信頼性が確認された。 研究2では,研究1で作成した尺度を用いて,集団間と集団内の地位の変化により,採用するイデオロギーが異なるかを検討した。大学生238名を対象とし,比較対象とする大学の地位を操作することで,所属集団(大学)の地位によるSDOの変化を検討した。その結果,自身の所属集団が高地位である時は,集団内での地位が低いほど階層拡大のイデオロギーを,集団が低地位である時には,集団内で地位が高い者ほど階層縮小のイデオロギーを採用しやすいことが明らかとなった。 これらの研究は,集団間関係における社会的地位の影響を解明する上で理論的意義があり,本研究の中では,外集団卑下・攻撃に至る心理的メカニズムの実証として重要な位置づけである。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者のこれまでの研究,および今年度の研究において,(1)外集団卑下に対して集団間地位と集団内地位の交互作用が見られ,高地位集団の低地位者,低地位集団の高地位者が外集団の印象を低く抱きやすいこと,(2)高地位集団の低地位者は階層拡大のイデオロギーを,低地位集団の高地位者は階層縮小のイデオロギーを採用しやすいことの2点が明らかになった。しかし,実際にこれらのイデオロギーが外集団卑下の原因となっているのか,また,外集団卑下が攻撃行動という形で表出されるのかが明らかになっていない。そこで,来年度は,実験室実験を実施し,参加者に地位を付与した後のSDOと外集団攻撃行動を測定することで,集団内,間の地位が,集団間階層に関するイデオロギーの採用の程度を変化させ,外集団攻撃行動を生起させるという一連の過程を実証する予定である。
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