2012 Fiscal Year Annual Research Report
仏語圏カリブ海域文学及びハイチ系ケベック移民文学におけるトランスカルチャー
Project/Area Number |
12J06359
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
廣松 勲 慶應義塾大学, 総合政策学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | トランスカルチャー / トランスカルチャレイション / パトリック・シャモワゾー / エミール・オリヴィエ / カリブ海域文学 / ケベック移民文学 / フランス語圏文学 / 語りの分析 |
Research Abstract |
本年度の研究計画では、分析概念である「トランスカルチャー」の定義を明確化するとともに、分析対象となる4人の作家の内、パトリック・シャモワゾーとエミール・オリヴィエの作品分析を進めることを主たる目的とした。 まず分析概念に関しては、主にキューバの文化人類学者フェルナンド・オルティスの用いた「トランスカルチャレイションtransculturation」という概念を参照しつつ定義を行った。彼は異文化接触の状況を「異文化受容acculturation」、「部分的自文化喪失deculturation partielle」、「新文化創造neoculturation」という3つの段階をもった文化伝達のプロセスとした。この観点に則り、私は「トランスカルチャー」がこのような文化伝達のプロセスの結果生まれた社会文化的状況であると定義した。その上で、分析対象となる小説の物語内容において、いかにしてそのような文化伝達のプロセスが記述され、その結果いかなる文化現象が生じたと描かれるのかを分析した。さらに語りの構造や物語の構成といったより形式的なレベルから物語を分析することで、物語内容において描かれた伝達プロセスが、いかなる形式的戦略の成果であるのか?を分析検討した。 具体的には、まずシャモワゾーの小説作品の分析では、彼が「奴隷制・植民地支配の記憶をいかにして伝達するか?」という旧植民地地域における社会的課題に挑み続けてきたこと、そして彼の作品制作はそのような社会的課題への応答であったことを解明することができた。オリヴィエの小説作品の分析においては、主に場所と記憶との関係に注目しつつ、「いかに移民たちが自らの起源の記憶を伝達しうるのか?」という課題に取り組んできたこと、そして社会学者でもある彼にとって、このようなテーマで文学作品を制作し続けることは社会的問題の解決策を想像的世界を介して提示するためであったことを解明した。 本年度の研究成果は、これまでの先行研究において言及はされたとしても、厳密な検討がされてこなかった「トランスカルチャー」という文化現象の文学作品における表象方法左明確化することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画の通り、分析概念(トランスカルチャー)や分析手法(社会批評分析)を確定し、2人の作家の作品分析を進めることができた。オリヴィエの研究発表に関しては、来年度2013年6月の国際フランコフォニー学会(CIEF)において本格的に口頭発表を行うことになったため、達成度に関しては一つ下げた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究計画は、初年度に確定した分析概念や分析手法を元にして、ダニー・ラフェリエールとラファエル・コンフィアンの作品分析を進めることである。学会発表や論文投稿を含めて、この研究計画は粛々と遂行するつもりである。 ただし、本年度具体的な分析を行っていく中で、分析概念や分析手法には、さらなる微調整を加える必要性も感じた。特に「社会的な物事」を文学テクストの中に書き込む、または読み取る技法に関しては、より説得的な理論を構築する必要がある。そのため、2年目に関しても、分析概念や分析手法に関する継続的な調査研究を進めるつもりである。具体的には、初年度においては実現できなかった海外での文献調査を、2年目には実行し、書店・図書館・研究室などで調査を行う予定である。
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