2012 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア語における有声性の不完全中和の実験音韻論的研究:産出と知覚の観点から
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12J06727
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
松井 真雪 広島大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | Phonetics / Laboratory phonology / Phonetics-phonology interface / Incomplete neutralization / Russian / Final devoicing / Voicing contrast / Speaking rate |
Research Abstract |
本研究には、2つの主目的がある。第1に、ロシア語の語末位置における有声阻害音の無声化(final devoicing ; FD)を事例として、音声産出と音声知覚の両観点から中和という現象を検討することである。第2に、不完全中和という現象と言語理論全般との関わりを考察することである。 上述の目的を達成するために、以下に挙げる3種類の音声実験を計画し実行した。 第1に、音韻論的な要因とそれ以外の要因とが音韻論における中和ないし対立とどのようにかかわりあっているのかを解明するための第一歩として、発話速度という要因が語頭の有声・無声閉鎖音の音声実現に与える影響を検討した。具体的には、異なる発話速度条件で産出された語の語頭に位置する有声・無声阻害音の声帯振動開始時間(voice-onset time;以降VOTと記す)の変動をそれぞれ観察した。言語横断的な研究からは、発話速度という要因が語頭の有声・無声閉鎖音のVOTに与える影響は、非対称的であるという結果が多数報告されているが、本実験の結果は、このような非対称性がロシア語の語頭閉鎖音においても認められることを示した。この成果は、発話速度の影響に関する言語横断的な研究において報告例がなかったロシア語の事例を報告した点で意義があると考える。上述の研究成果は、国際学会および国内研究会において報告した。 第2に、ロシア語に実在しない疑似名詞を対象として、音声産出実験を実施した。その結果、擬似名詞を用いた場合にも、中和することが予測される語の間に、音響差が観察されることが明らかになった。以上の研究成果の中間結果は、国内研究会において報告した。さらに、産出実験で得た音声を用いて、知覚実験を実施した。知覚実験の分析と結果解釈は、平成25年度まで継続される研究課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の予定では、3種類の現地調査(音声実験)を実施することを計画していた。第1・2の調査は平成24年4月上旬と平成24年9月中旬~下旬に実施した。そして、第3の調査は平成25年3月下旬に実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
以上から、本研究は、当初の予定通り、おおむね順調に進展していると考える。 今後の推進方策として、次の2点を考えている。 第1に、平成24年度に現地調査で得られた成果を取りまとめ、論文等の形で発表することである。特に、平成25年3月下旬に実施した調査(音声知覚実験)の分析と考察は、平成25年4月以降に継続される重要課題の1つである。 第2に、本研究が取り組む「不完全中和」という現象が音韻論に対して与える示唆について、考察を深めることが必要であると考える。「不完全中和」という現象が実在するのか否かという問題を、諸種の実験を通して検討すると同時に、「不完全中和」現象は(もし実在するならば)いかなる理論的問題を提起しているのか、そして、その現象を説明するためにいかなる理論を構築する必要があるのかを考察していく。
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Research Products
(3 results)