2012 Fiscal Year Annual Research Report
動学パネルモデルにおける推定の高次漸近的効率性とセミパラメトリック効率性
Project/Area Number |
12J06892
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩倉 相雄 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | パネルデータモデル / 推定量の効率性 / 個別効果 / 相互効果 / 二重漸近論 |
Research Abstract |
計量経済研究においては推定量を開発するだけでなくそのパフォーマンスを評価することも重要である。近年パネルデータ分析では時系列の標本サイズも大きい状況で種々の推定量が開発され、その漸近分布やバイアス補正の手法が提示されている。しかし、推定量のもっとも基本的かつ重要な評価である効率性(漸近分散の最小性)については殆ど研究がされていない。本研究の目的は、パネルモデルにおける推定の効率性限界を導出し既存推定量の評価を行うことである。本年度では、非線形パネルモデルにおける推定の効率性に関して研究を行った。時系列の標本サイズが大きくなる状況で効率性を議論した先行研究としてパネル自己回帰モデルを考えたHahn and Kursteiner(2002)があるが、非線形モデルに拡張するには多くの修正が必要である。そこで、彼らの手法の問題点を指摘するとともに数理統計学の文献(特に、Strasser(1998)を参考にしてそれらを克服する手法を提示した。具体的には、個別効果の真値に弱収束列(Strasser(1998)の仮定を課し、その上で、個別効果に対する摂動を数列ではなく関数で行うという手法を用いて、非線形パネルモデルにおける推定量の漸近分散の下限を導出することに成功した。その手法は単に数学的な問題点を克服しただけでなく、統計学的解釈のつけやすい仮定(弱収束列の仮定)のもとでなされており、また、その手法の動機付けについても適切な説明を行った。さらに、相互効果の入ったより複雑な非線形パネルモデルにも議論を拡張しそこでの漸近分散の下限も導出し、報告者の提示した手法が拡張性の高いものであることを示した。年度を跨ぐことになるが、研究成果を2013年4月17日の京都大学計量経済学セミナーで発表し、また、2013年5月8日に東京大学ミクロ実証分析ワークショップで発表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、効率性限界の導出に際しHahn and Kursteiner(2002)の手法を土台にする予定であった。しかし、研究を進めるうちに彼らの手法には問題点があることが分かってきた。そこで数理統計学の既存研究(Strasser(1998))を参考にしてHahn and Kuersteiner(2002)の問題点を克服する手法を提示した。その手法はそれ自体が重要であるだけでなく、今後の研究の基礎になるものであり、研究計画は順調に進んでいると自己評価している。
|
Strategy for Future Research Activity |
パネルデータモデルで個別効果を固定された母数と見た場合、それらは標本数とともに増加する無限次元局外母数を構成し付随母数(incidental parameter)と呼ばれている。本研究の最大の難所は、付随母数の取り扱いである。 本年度の研究では、Strasser(1998)の手法を参考にし、付随母数が存在する状況で効率性限界を導出する手法を確立させた。本年度に得られた結果はそれ自体が重要であるだけでなく今後の研究の基礎を成す。特に、来年度に計画している正規性が成立しない下での動学パネルモデルの効率性の評価にも応用可能であり、今後の研究方策は明確である。
|