2012 Fiscal Year Annual Research Report
脊髄損傷モデルサルを用いた人工神経接続による運動・体性感覚機能の同時再建
Project/Area Number |
12J06914
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
加藤 健治 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(D2)
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Keywords | ブレイン・コンピュータ・インタフェース / 人工神経接続 / 脳梗塞 |
Research Abstract |
脊髄損傷や脳梗塞など中枢神経障害後の四肢の運動・体性感覚麻痺は、大脳皮質と脊髄とを結ぶ神経経路の切断に起因するものである。しかしながら、損傷領域の上位に位置する大脳皮質、下位に位置する脊髄・末梢神経・筋肉の機能は残存されており、損傷領域をバイパスして残存した神経構造同士を繋ぐことで、失った機能が再建できる可能性がある。本研究の目的は、人工神経代替装置を介して神経問をつなぐ人工神経接続によって、運動・体性感覚麻痺の患者さんの損傷されずに残った神経・四肢を有効利用したブレイン・コンピューター・インターフェースを構築することである。 本年度は、3頭の運動・体性感覚機能の麻痺した脳梗塞モデルサルを作成し、大脳皮質⇒筋間の人工神経接続によって失った上肢の運動機能を再建できるかどうか検討した。大脳皮質に45極のシート状電極を留置し、そこから得られた脳活動を抽出することで、大脳皮質⇒筋間の人工神経接続を試みた。人工神経接続中、脳梗塞により片麻痺になったサルは、自らの脳活動を随意的に変化させながら電気刺激を制御し、随意的に麻痺した筋を運動制御することができた。さらに、人工神経接続を施した25分間で、手首の力制御タスクのパフォーマンスは有意に向上し、サルが自ら人工神経接続に対して学習できることが明らかになった。この成果ば、世界で初めて、運動麻痺を呈するモデル動物において、人工神経接続により上肢運動機能を再建できることを示唆した研究成果となった。 次に、人工神経接続の臨床応用を目指すための前段階として、筋活動依存的な電気刺激を末梢神経へ送り返して手首運動を増幅する「筋⇒末梢神経間の人工神経接続」を考案し、それに対して健常被験者が運動適応できるかどうか検討することを目的とした。25名健常成人において到達運動中の手の運動軌跡より適応現象を追った結果、人工神経接続直後、被験者は手の位置制御ができず運動軌跡が標的を行き過ぎてしまうものの、300回の訓練のうちに、標的を超えることなく正確に到達できるようになり、人工神経接続に対して運動適応できることがわかった。適応後、人工神経接続を突然切断すると、逆に標的に届かない位置で運動軌跡が止まった。これらの結果は、被験者が、脳からの運動指令を減少させることによって筋⇒末梢神経間の人工神経接続に運動適応したことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、申請者は人工神経接続のシステム構築とともに、運動麻痺を呈した脳梗塞モデルサルを3頭作成し、世界で初めて運動麻痺を呈するモデル動物において、大脳皮質一筋間の人工神経接続による上肢運動機能の再建に成功した。現在、論文投稿準備中であり、当初の計画通りでといえる。さらに、来年度の研究計画に向けて、運動機能と同時に体性感覚機能の再建を目指すための実験セットアップが終了し、来年度中に新たに脳梗塞モデルサルを作成し、実験を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、人工神経接続によって、運動機能だけではなく、体性感覚情報も同時に機能再建できるかどうかを検討する。つまり、「大脳皮質⇒筋」間の人工神経接続によって、サルが麻痺した上肢の運動を随意制御し、その運動の結果を、「筋⇒体性感覚野」間の人工神経接続によって、体性感覚野へ返すことにより、運動・体性感覚機能の同時再建を目指す。サルがフィードバックされた体性感覚を上肢運動制御に利用しているかどうか検討するために、「大脳皮質運動野⇒筋肉」を残した状態で、「筋肉⇒一次体性感覚野」間の人工神経接続を突然切断し、探索行動や運動軌跡の乱れが生じるかどうか検証する。電気刺激によるアーチファクトによって脳活動の記録精度が落ちる場合には、waveform discriminationによって電気刺激と脳活動を分別し、脳活動の抽出を試みる。
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