2012 Fiscal Year Annual Research Report
比較ゲノム解析に基づく陸上植物の日長感知の基本メカニズムの解明
Project/Area Number |
12J06987
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
久保田 茜 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 概日時計 / 生長相制御 / 進化 / コケ植物 |
Research Abstract |
研究員は、長日植物であることが報告されている苔類ゼニゴケを用いて、概日時計による生長相制御の分子機構の原型と進化を明らかにする研究を進めてきた。その結果、ゼニゴケは被子植物の時計因子のオルソログを1分子種ずつのみもつこと、各時計因子の長日条件下の発現様式が被子植物と類似した日内変動を示すことを明らかにした。次に、各時計因子の過剰発現株およびノックアウト株を作出し、表現型解析を行った。その結果、各時計因子のノックアウト株において他の時計因子の発現リズムの振幅や周期が大幅に変化した。またこれらの表現型はノックアウト株に原因遺伝子全長を導入することで相補された。このことより、各ノックアウト株における概日リズムの表現型異常が遺伝子破壊によるものであることが支持された。以上を合わせて、ゼニゴケの概日時計は複数の転写翻訳フィードバック制御により構成されており、被子植物の概日時計のプロトタイブを保持していることが示唆された。さらに、ゼニゴケの概日時計がどのような生理応答に関与するかを解析するために、時計因子の変異体における生長相転換時の表現型(生殖器形成として観察される)を解析した。その結果、複数種のノックアウト株、過剰発現体において長日条件下の生殖器形成時期が野生株に比べて変化した。このことから、ゼニゴケの概日時計因子が日長認識を介して生長相制御に関与することが考えられた。興味深いことに一部の変異体では、野生株で生殖器形成が見られない短日条件下においても生殖器形成が観察された。この表現型はシロイヌナズナの対応する遺伝子の表現型と共通していた。以上より、概日時計から生長相転換までのシグナル伝達機構が、配偶体世代優勢のコケ植物においてすでに獲得されていたことが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではシロイヌナズナの概日時計の主要構成因子および光周性花成制御因子のゼニゴケホモログを単離同定し、その遺伝子破壊系統および過剰発現系統を作出することで機能解析を進めてきた。その結果、植物が陸上化した時点で概日時計および生長相転換の分子メカニズムの基本形が成立していたことを示すことができた。これらの成果は時間生物学会シンポジウムなどで発表を行った。現在までに植物系統の作出はほぼ完了しており、論文化に向けてデータの解析を進めているところである。研究目的はおおむね順調に進んでいると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに単離したゼニゴケの時計因子間の相互作用を遺伝学以外の手法を用いて証明するために、ChlP-PCRやレポーターアッセイを用いたDNA一タンパク質間相互作用解析について検証を進めていく予定である。得られたデータを基に、コンピューターモデリングなどの手法を取り入れつつゼニゴケの概日時計の分子ネットワークのモデルを完成させることを今年度の目標とする。また、現在までに作出した遺伝子破壊系統および過剰発現系統において、生長相転換時の表現型を定量的に評価することを目指す。また生長相転換以外の栄養成長期の表現型にも着目して観察を行い、ゼニゴケの概日時計がどのような生理応答を制御するかについて新たな知見を得る。
|
Research Products
(5 results)