2012 Fiscal Year Annual Research Report
沈み込みプレート境界のレオロジー:東北地方太平洋沖地震の発生機構の解明に向けて
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12J07181
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
澤井 みち代 広島大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 東北地方太平洋沖地震 / 高速摩擦 / 遠洋性堆積物 / 藍閃石片岩 / 間隙水圧 / 高温・高圧実験 / 摩擦挙動 |
Research Abstract |
東北沖プレート境界域の地質から予想される岩石を使って低温~高温,低速~高速条件下で摩擦実験をおこない,東北日本における沈み込みプレート境界の摩擦の性質を決める目的で以下の研究を実施した. 1.これまで,沈み込みに伴う大地震が発生した際に,大きな滑りがプレート境界浅部で起こるとは予期されていなかったが,東北地方太平洋沖地震では海溝軸付近で50m程度の大規模な滑りが生じたことが明らかとなっている.この浅部での大きな滑りが巨大な津波を引き起こした可能性が高いが,なぜこのような津波を誘発する地震が起こったのか.その機構を明らかにするのは容易ではないが,本研究では実際に沈み込む堆積物を用いて摩擦実験を行い,その摩擦特性からこの問題を検討することを試みた. 実験は,東北沖日本海溝に沈み込む太平洋プレートに堆積したチャート層直上の遠洋性堆積物(DSDP,Leg56,Site436,Core38及びCore40)を用い,高知コア研究所に設置されている高速摩擦試験機を使用して行なった.その結果,東北沖に沈み込むプレート境界物質(特にチャート直上の遠洋性粘土質堆積物)の定常摩擦係数が,低速~高速の広い速度範囲で0.2以下という低い値を示すこと,さらに滑り始めの初期ピーク摩擦の値も極めて低いことが明らかとなった.以上に示す摩擦の性質が,東北地震の際にプレート境界浅部において大きなすべりが誘発された要因の一つではないかと考えられる.2.東北沈み込み帯の地震発生域に存在すると考えられる藍閃石片岩の震源環境条件における摩擦の性質を調べ,断層の力学の立場から東北地方太平洋沖地震はじまりのメカニズムを検討することを試み始めた.実験には産業技術総合研究所所有の高温・高圧三軸試験機を使用し,まだ予察的研究段階であるが,プレート境界浅部や深部の非地震発生域においても,間隙水圧が上昇することで地震を起こす性質をもつということを示唆する結果が出ている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,当初予定していた高知コア研究所の高速摩擦試験機を用いた低速・中速・高速摩擦実験をおこない,沈み込む前の堆積物の摩擦特性を明らかにし,それと津波地震との関連性を考察している.成果は国内学会・国際学会にて随時発表するとともに,現在は国際誌掲載に向けて論文を執筆中である.同じく予定していた高温・高圧三軸試験機を用いた高温熱水条件下での摩擦実験を,東北沈み込み帯の地震発生域に存在すると考えられる藍閃石片岩を使用して取り組み始めている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本研究を推進すべく,当初の予定とは少し変更し,6月より1年間オランダのユトレヒト大学にて摩擦実験・及び物質解析を進めたい.実験試料としては東北地方太平洋沖地震後の昨年4-5月におこなわれたJFASTでの航海で採取された東日本に沈み込んだ堆積物を使用する予定である.6月までは本年度取り組み始めた藍閃石片岩での実験の追加実験等をおこない,少しでも進展させ,帰国後本格的に取り組む上での土台としたい.最終年度の6月以降は,藍閃石片岩の実験を再開に加え,広島大学・高知コアセンター両機関の機器分析装置を駆使し、微細組織の観察にも重点を置く予定である.これらにより,東北地方太平洋沖地震をシミュレーションで再現するために必要な断層の力学的・化学的性質を明らかにし,連動型巨大地震のモデリングに必要なデータとして海溝型巨大地震の発生機構の理解へとつなげる.
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Research Products
(4 results)