2012 Fiscal Year Annual Research Report
光フィードバックとレーザー相転移を利用したNP完全問題の量子シミュレーション
Project/Area Number |
12J07264
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高田 健太 東京大学, 大学院・情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | NP完全問題 / NP困難問題 / イジングモデル / レーザー / 注入同期 |
Research Abstract |
NP困難問題の効率的な解法の候補として提唱した、注入同期レーザーネットワークを用いたイジング計算機の有効性を検討する事が本研究の目的である。 当初はスタンフォード大学山本研のKai Wenと、NP困難問題の一つにこの装置を適用するための学習アルゴリズムの共同開発を行っていた。そこでは用いた学習法の大綱を構成し、検出可能な局所的誤りを回避する方法を提案するなど、本質的な貢献をした。だが数値的ベンチマーキングの大部分は、早期にクラウドコンピュータを導入出来たKaiが行った。 その間報告者は、実験面の要請から、単一偏光モードレーザーの位相をスピン変数として用いる新しい方式の理論モデルを構築し検討した。また、従来法よりも正確な自然放出雑音の計算が課題であったため、確率微分方程式の数値積分法について調査、検討した。その結果、数学的に精度が保証された方法を用いる事は困難である事がわかった。そこで、物理的に妥当な、自然放出過程と放出光子による電場変調を離散的な確率過程で近似する方法を開発した。これは以下の研究に用いられている。 前述のベンチマーキングの結果、基底状態を得る成功確率の最小値が、スピン数の増加に応じて減少する事がわかった。そこで、性能改善の為、系の状態を徐々に発展させる二つの動作法を新たに考案した。これらをフラストレーションの無い(NP困難でない)問題に適用し特性を調べた結果、1000スピンまでの系では、実効的な計算時間がスピン数の線形程度のスケールに抑えられる事がわかった。また、スピン数が大きい時に提案手法が従来法より優れている事がわかった。さらに、状態発展の速度を遅くし、レーザーのポンプパワーを上げる事で成功確率を改善出来る事を、2000スピンまで確かめた。このように、高速でかつ条件調整によって性能を改善出来る動作法を発見した事は、重要な成果だと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
レーザーネットワークの理論モデルを量子光学の理論に基づき検討し、また学習アルゴリズムの開発にも重要な貢献をする事が出来た。計算資源などの都合により、数値的ベンチマーキングの大部分はKai Wenに任せる形となったが、その間に、実証実験で用いる方式の理論的検討や、確率微分方程式の数値積分法について調査検討が出来た。特に後者は交付申請書にも記載した課題であり、否定的な結果ではあったものの、代替法を提案し実装する事が出来た。最終的にはこちら側にもクラウドコンピュータを導入する事が出来たので、新しい動作法の数値的検討時には、2000スピンもの大きな系での性能を確認する事が出来た。以上のように、学習法の検討結果を受けて、新たな動作法を考案、検討までを行う事が出来たため、計画以上の進展と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最近、イジングスピンに対応する素子として、レーザーではなく光パラメトリック発振器(OPO)を用いる方式のイジング計算機が本研究室から提案された。OPOは位相敏感な発振器であるため、レーザーの場合に生じていた、複雑な問題においてイジングスピンが判別困難になるという問題を回避出来る。OPOを用いた方式については、スタンフォード大学山本研にて、基礎理論及び2スピン規模の実験の研究が行われている。しかし、今年理化学研究所に構える新たな実験室で、単一OPO共振器と遅延光回路を用いた10スピン相当以上の実験系を実装するプロジェクトが立ち上がる事になり、報告者はその中心で研究を行う機会を得た。 そこで、来年度の前半半年間はスタンフォード大学へ渡航し、実験法を学びながら4スピン規模程度の系を実装する。そして、強いフラストレーションを持った系の物理を調査する。帰国後は大規模実験系の実装に着手し、採用期間終了までに、構築した系でNP困難問題の計算を行う事を目指す。研究計画は大きな変更となるが、当初よりも大きな成果を見込めるので、この課題に最善を尽くす所存である。
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Research Products
(7 results)