2012 Fiscal Year Annual Research Report
『宗鏡録』の研究--唐から宋への仏教思想の展開--
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12J07297
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳 幹康 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 『宗鏡録』 / 永明延寿 / 『観心玄枢』 / 宗密 |
Research Abstract |
本研究は、唐から宋にいたる中国仏教の思想的展開の連続的な把握を目指して、『宗鏡録』の思想を研究するものである。『宗鏡録』は、唐・宋間の五代に活躍した永明延寿(904-975)が、唐代以前の仏教典籍を渉猟して編んだ書物で、宋初に二度の開板を経て入蔵し、仏教の正統説としての権威を得た。上には唐代までの仏教思想を承け、下には宋代以降の大蔵経に編入される『宗鏡録』は、唐から宋にいたる中国仏教思想の展開を考える上で、極めて重要な書物である。 初年度には、(1)資料の調査と整理、(2)思想の分析、(3)後代への影響、の三点を中心に研究を進めた。 (1)当初予定していた天理図書館所蔵の延寿撰『観心玄枢』3巻(1069年書写本)の内容の調査を行い、『宗鏡録』との比較を進めた。 (2)延寿が唐末の宗密(780-841)の教禅一致論を換骨奪胎して、従来の階層的な仏説観、を単層的なものに再編したことを明らかにした。宗密の教禅一致論は、南北朝から唐代にかけて盛んであった「教判(教説を分類つる仏教の解釈学)」の流れをうけるもので、教(仏説)と禅(禅僧の言葉)を上・中・下の三層に分類するが、延寿はそれを継承する際に、能詮(説示するもの)・所詮(説示されるもの)というカテゴリーを導入し、宗密が細分していた教説を全て能詮に収めている。これにより、従来は階層的に分類されていた仏説が、能詮という点ではみな等価であると全面的に解釈されるようになった。 (3)宋代以降、延寿が蓮宗の祖師、仏教の再編者として評価が高まる過程を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた『観心玄枢』の調査を実行したこと、ならびに仏説を能詮に一括するという延寿の思想的特徴を解明したことに加え、当初の計画には無かった後代における延寿の評価が高まる様子も明らかにできたことから、研究が計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き延寿が撰述した文献の調査を進めるとともに、宋代以降の仏教典籍における『宗鏡録』の引用状況を分析し、『宗鏡録』が後代の仏教思想に与えた影響を明らかにしていく。
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