2012 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝的多様性の低下したツキノワグマ地域個体群で確認された骨異常に関する研究
Project/Area Number |
12J07352
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
中村 幸子 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | ツキノワグマ / 骨形態異常 / 遺伝的多様性 / 椎骨数 |
Research Abstract |
本研究の目的は、兵庫県に生息し遺伝的多様性が低下しているツキノワグマ地域個体群で確認された骨異常の形態的・組織的特徴分析と原因解明および、この個体群の健全性評価である。初年度は、肉眼観察による骨病変部の特徴の明確化と栄養状態評価指標の検討を行った。 クマの骨に関する基礎情報が欠落していた現状から、まずクマの椎骨数や形態特徴に関する情報を整理した。結果、クマは頚椎7椎、胸椎14椎、腰椎6椎が基本数であるが、個体群ごとに脊椎数に差異があることを明らかにした。形態に関しては、まれに第一腰椎横突起の伸長と先端部の鋭角化が見られ、形態の特徴から肋骨様変化(腰肋)と示唆された。また、この形態が確認される頻度についても個体群ごとに差異があることを示した。以上の結果をもとにして、加齢性(正常)変化と病性(異常)変化による骨形態の特徴を分析した。骨表面の栄養孔数の増加と孔径の増大、胸椎・腰椎部での副突起の融合、関節面側部の膨隆などが高齢個体ほど顕著に確認されたことから、これらの変異は加齢が大きく関わっていると推察された。これにより、骨の正常変化部と分析すべき病変部の分離を可能にする観察ポイントを明らかにした。また、兵庫県個体は岩手県個体では確認されない形態(例えば、脊椎部の塊状椎)が確認されたこと、岩手県個体でも類似の骨変化が確認された場合においても、兵庫県個体の方がより骨変形が重篤でありかつ、より若い個体から確認されることを示した。 次いで個体群の健全性評価として、特に栄養状態評価に関する分析を行った。多くの動物種で栄養状態指標として用いられる腎臓周囲脂肪指標背側部皮下脂肪厚指標、腰部周囲指標の3指標について、体脂肪率との相関が最も高い指標を検討した。腰部周囲指標が最もよく体脂肪率を反映していることを明らかにし、生体個体に対する簡便かつ有用な栄養状態指標となることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度計画である肉眼観察による骨病変の形態特徴に関しては概ね分析が終了している。顕微鏡観察については、骨薄切標本作成までの手法確立が終了しており、顕微鏡観察分析を進めるための準備が完了している。個体群の健全性評価としての繁殖状況はこれまでの結果をまとめ、外部セミナーにて発表済みであり、栄養状態評価については解析がほぼ終了し、投稿論文としてまとめる段階となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に進めた研究により、加齢に伴う形態変化と病性変化とを区別することが可能となり、病変の原因解明のために観察すべき部位を絞り込むことが可能となった。これにより、今年度重点的進める研究内容である、顕微鏡観察による病理学的特徴の分析および原因分析が円滑に進むことが期待される。 また、クマの骨基礎情報および栄養状態評価に関しては、データをほぼ解析し終えているため、投稿論文作成を進める。
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