2012 Fiscal Year Annual Research Report
ジャン=ジャック・ルソーにおける地方性の文学的・政治的反響
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12J07406
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 山人 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ルソー / 18世紀啓蒙主義 / フランス / 都市と地方 / モード / 書簡体小説 |
Research Abstract |
平成24年度に実施した研究として、第一にジャン=ジャック・ルソーの書簡体小説『新エロイーズ』と、イザベル・ド・シャリエールの書簡体小説『ヌーシャテル書簡』との関係性について考察した研究が挙げられる。ルソーは『新エロイーズ』の中でスイス地方特有のフランス語表現を用いながら小説を構成しているが、このような手法はスイス・ヌーシャテルを拠点として18世紀末に活躍したシャリエール夫人の小説にも認められる。シャリエール夫人がルソーから引き継いだ言語的な脱中心性は、その後の彼女の著作活動の中で反革命的な視点と結びつき、パリの普遍主義に対する距離の演出を可能にするものとなる。 シャリエール夫人の著作とルソーの著作をスイスの地方性によって比較することによって、ルソーが反革命的な立場に対して持っていた影響力の一端を明らかにすることができた。この成果は、『18世紀学会年報』27号にフランス語の紀要論文として掲載された。また、2012年6月には日本フランス語フランス文学会全国大会において、革命期の作家セナク・ド・メイランとルソーとの関係性について研究発表を行った。ここでは、スイス地方表現とは別の観点から、ルソーが反革命思想に対して与えた反響について明らかにしている。シャリエール夫人だけでなく、セナク・ド・メイアンもまたフランス文学・思想史から忘れられた存在であるが、このような無名の作家たちにもルソー主義の水脈は受け継がれている。特にセナクの場合は、ルソーと彼が生前対立していたヴォルテールや運命論的な思想とを結合させている点で、同時代における複雑なルソー受容のあり方を表現していると言える。以上のように、革命期においてルソーの著作が、革命批判の言説の中にどのように取り入れられていたのかを明らかにした点が、本研究の意義であったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度から平成25年度にかけて、それぞれイザベル・ド・シャリエールとセナク・ド・メイアンについての論文を学会誌に掲載することができた。いずれも査読を経た論文であり、問題の着目点やテクストの分析方法に関して18世紀を専門とする研究者から高く評価されたものであった。このような研究成果を土台として、革命期にルソーの著作・思想が、同時代の無名な作家たちのもとでどのように受容され、反革命的な視点を形成し得たのかという点に関して、今後も継続的に作業を反転させることができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、1770年から1780年にかけて、ディドロ・ダランベールの『百科全書』の影響下で編纂された、イヴェルドンの『百科全書」も研究対象に含めることとしたい。このスイスの「百科全書』を編纂していたフェリーチェとルソーとの書簡、さらに、イザベル・ド・シャリエールとの書簡を同時に研究しながら、18世紀後半においてスイスの地方性がフランス語圏の知的ネットワークの中で果たしていた役割について考察することが目的である。また同時に、フランスにおけるディドロ・ダランベール「百科全書」の研究チームに参加しながら、このような普遍主義的な辞書と、イヴェルドンの「百科全書」との間にあった地政学的な関係を明らかにしながら、パリとスイスの空間的距離が同時代において果たした思想的意義を特に反革命的な視点から分析することとする。
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Research Products
(3 results)