2012 Fiscal Year Annual Research Report
時間平均されたカレントゆらぎに対する統計力学的理論形式の実践的展開
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12J07538
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
根本 孝裕 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ゆらぎ定理 / 大偏差関数 / ブラウン粒子 |
Research Abstract |
本年度は、時系列上で定義される大偏差関数について主に次の2つの研究を行った。(a)小さい系の熱流のまれに起こるゆらぎに着目した研究、及び(b)ガラス化を示すとされる格子模型の解析研究である。これら(a)、(b)の研究は交付申請書の「研究の目的」欄に記載した(i)、(ii)の研究計画に沿ったものとなる。(a)の研究内容については、2012年6月に雑誌Physical Review Eに掲載された。また申請書の「研究実施計画」に記載したように、実際に2012年6月にはイタリアのジリオ島で行われた研究会に出席し、(a)の内容についての研究発表を行った。以下、(a)の内容について簡単に説明する。熱力学的極限を取ることが出来ないほど小さい系においては、ゆらぎが大きな役割を持つ。特にエントロピー生成のゆらぎについて、ゆらぎ定理と呼ばれる性質が1993年に発見された。この性質は広く成り立ち、非平衡系の様々な知見(例えば線形応答理論と呼ばれる結果など)がここから再現されるとして注目を集めた。ところが2004年、van ZonとCohenは簡単なブラウン粒子の系を解析し、この性質は破れうると指摘した。我々は本研究の申請書に記載した手法(以前の研究で見出した手法)を用いて、この破れを物理的に理解しようと試みた。実際に周期境界上のブラウン粒子を考え、そこから粒子をトラップする極限を取り、そのときの粒子の振る舞いを調べる。するとその粒子はまれなゆらぎによってポテンシャルを駆け上がるような運動を示し、そしてその運動によってゆらぎ定理が破綻することを突き止めた。この研究成果は、上で述べた研究会の他に、2012年12月に九州で、2013年3月にスウェーデンのストックホルムで行われた国際学会においても発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した目的に沿って、9で述べたように(a),(b)二つの研究を行った。その成果は雑誌PhaysicalReviewEに掲載され、また様々な国際会議においてその内容を発表した。従って本研究の現在までの達成度は、「(2)おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記9で述べた研究(b)は現在も進行中である。この研究はフランスのパリ第7大学教授F.van Wijland等との共同研究となる。交付申請書にも記載したように、本申請書の研究と関連した研究は主にヨーロッパの研究者によって行われている。従って今後もこのような共同研究が増えていくことが期待される。今後の推進方策として、まずF.van Wijland教授等との共同研究を発展させ、その成果を論文の形で残し、それを足掛かりに更なる進展を、パリの研究者(例えばESPCIのJorge KurchanやKen Sekimotoなど)と議論していくことを考えている。
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Research Products
(7 results)