2013 Fiscal Year Annual Research Report
異学の禁と漢詩-天明・寛政期の日本における漢詩の位置づけ
Project/Area Number |
12J07547
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山本 嘉孝 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 日本近世文学 / 漢詩 / 儒学 / 教化 / 教訓和歌 / 山本北山 / 中村蘭林 / 野田成勝 |
Research Abstract |
平成25年度の研究成果は、(ア)山本北山の詩文諸芸論に関する研究の全国学会誌への掲載、(イ)中村蘭林の作文論・詩歌論の調査研究、(ウ)江戸時代中・後期における教訓和歌の調査研究、の三点に整理できる。 (ア)『近世文藝』第99号に掲載された論文で、山本北山が詩文論においては荻生徂徠の擬古説を否定する一方、儒学においては荻生徂徠の経世思想を引き継いでいる点、また北山の詩文諸芸論の根底には、個人の修身・心の涵養ではなく、制度・風俗の整備を介した教化を目指す経世観が作用していた点について論証し、新説を提示した。天明・寛政期における詩風転換と儒学・経世学の関連の一端を明らかにすることができた。 (イ)寛政異学の禁に先行して朱子学の奨励を企図した奥儒者、中村蘭林の学術と詩文論について調査をすすめ、暫定的な研究結果について第6回学際日本駒場フォーラムで口頭発表を行った。蘭林が詩文・詩歌の制作の奨励を通して如何なる教化を目指したか、特に山本北山との対比によって明らかにした。 (ウ)天明・寛政期前後における雅文芸と修身・教化の関係を探るべく、教訓和歌の調査研究に着手した。まずは幕臣、野田成勝による教訓和歌集『要語歌』(文化14年〈1817〉序刊)を取り上げ、フランス・パリで開催された国際比較文学会大会で口頭発表を行い、漢文・漢語による頭注・傍注の分析を通して、儒学と和歌の直接的な接点について明らかにした。漢詩を扱う上では和歌にも注意を払うべきであることが明らかになった。以上の調査研究により、天明・寛政期前後の漢詩と儒学の関連について更に理解を深め、先行研究が指摘する以上に、反擬古の立場を標榜する儒者の詩論・文芸観が、各々の儒学思想、殊に各々が理想とする「教化」のあり方に依拠していることを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
山本北山と中村蘭林の著述の詳細な分析を通して、天明・寛政期とその前後における漢詩のあり方を、「教化」との関連において明らかにした。またその研究成果を国内外の学会で口頭発表、並びに全国学会誌上で論文としてまとめ、世に問うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「教化」をキーワードとして、天明・寛政期における詩風転換の歴史的な位置づけを更に精錬していく計画である。具体的には、18世紀半ばから19世紀初頭にかけて個々の儒者が提示した多様な「教化」観、特に学問・諸芸奨励をめぐる議論(異学の禁に関するものも含む)を整理し、その中で漢詩の占めた位置・役割を明らかにする。 ひいては、継続して山本北山(異学の禁に反対)と中村蘭林(異学の禁の基盤を準備)の学問と詩文諸芸論を分析すると同時に、尾藤二洲・頼春水(ともに異学の禁を推進)、及び冢田大峰(異学の禁に反対)も調査研究の対象に含め、より多角的な視点を養いながら、「雅文芸と教化」を主題とする博士論文をまとめる計画でいる。
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Research Products
(3 results)