2012 Fiscal Year Annual Research Report
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12J07580
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
若狭 彰室 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 条約法 / 戦争法 |
Research Abstract |
平成24年度は本研究の第1年度として、本研究の出発点となる、18世紀末期から19世紀初頭における「戦争が条約に及ぼす効果」に関する国際法学説、具体的にはVattel、Martens、KIUberの所説の検討を行った。その際、検討の視角として、そもそもなぜ戦争が条約を終了または停止させるとされてきたのかの根拠、即ちその正当化原理に着目した。従来の研究によれば、条約に対する戦争の効果は、当初、戦争が無法状態であることを根拠としていたとされる。そして、ILCの「武力紛争が条約に及ぼす効果」法典化作業では、特別報告者Brownlieによって、こうした無法状態論が本主題の客観的な根拠論として意思理論に対置され、その結果として今日では意思理論こそが妥当するとされた。 しかし、本研究により、少なくとも19世紀初頭において、無法状態論は学説上も国内判例上も支持されていたとはいえず、他方で戦争の効果が当事国の意思の効果に解消されていたわけでもないことが明らかとなった。即ち、無法状態論の代表的論者とされるVattel、Martens、Kluberは、確かに、結果的に条約が一般に戦争によって消滅することを肯定していたが、その根拠は戦争の無法状態性に求められていたわけではなく、戦争が自らの権利の防衛・回復手段であるという正戦論の論理と、当事国の意思によって、複層的に正当化していた。 以上の検討により、本主題の根拠について、戦争の無法状態性か当事国の意思かという二元的な議論枠組は必ずしも適切でないということが導かれた。そしてまた、条約に影響を与える「戦争」は事実や状態としてのそれ(武力紛争)よりも、行為(武力行使)として捉えられる可能性が見出された。 なお、以上の研究成果は、国際法学会学会誌である『国際法外交雑誌』に「研究ノート」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本主題に関わる初期の議論の実相を明らかにしたことにより、本研究の出発点及び今後の研究の検討視座の基礎が築かれた。また博士論文の一部となる予定の上述の研究結果を独立論文として公刊することも出来た。以上の点から、本研究は「おおむね順調に進展している」と評価出来ると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、24年度の研究の結果を基礎として、24年度においては検討の射程に含めなかった19世紀中葉以降の本主題に関する学説の検討を中心に行っていく予定である。なお、この作業に際しては、24年度の研究成果を踏まえ、同時代における戦争観、戦争の法的性質に関わる議論に着目する。
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Research Products
(1 results)