2012 Fiscal Year Annual Research Report
スコットランド常識学派からドイツ観念論に到るコモン・センスの変容と啓蒙の思弁化
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12J07633
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
阿部 ふく子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 特別研究員(PD)
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Keywords | ドイツ観念論 / ヘーゲル / 思弁 / 啓蒙主義 / コモンセンス・共通感覚・常識 / スコットランド常識学派 / 哲学教育 |
Research Abstract |
本研究の目的は、コモン・センス(=常識、共通感覚)と思弁の関係性、ひいては両者のあいだで主体が果たしうる哲学的教養形成の可能性を、1)スコットランド常識学派の影響が見られる近代ドイツの啓蒙主義、2)その後のヘーゲルを中心とした思弁哲学、3)現代ドイツの哲学教授法という三つの領域の体系的研究を通じて総合的に描き出すことである。 本年度は、三つの領域について、以下の内容で研究を進めた。 (1)18世紀後半にスコットランド常識学派からドイツ啓蒙主義へ流入したコモン・センス概念の影響作用史を探るための予備的考察として、ニートハンマーとラインホルトの論考を取り上げ、そこで推進される<常識と哲学の架橋>という構想の意義と限界性について吟味した。 (2)ヘーゲル哲学の<思弁>概念について、それが啓蒙主義のもたらした人間悟性の光と闇=知と無知を弁証法的に内面化して引き受ける全体的思考として練り上げられたプロセスを押さえながら、総合的に論究した。この研究成果は(1)の内容と合わせて博士論文「ヘーゲル哲学における思弁の生成」(24年度3月、東北大学大学院文学研究科に提出)に収められた。また若きヘーゲルが取り組んだフラットの経験心理学講義を翻訳し、悟性ないし経験的科学に属する事柄をヘーゲルが自らの思弁哲学の体系にどのように有機的に関連づけてゆくかという問題を今後検討するための予備的考察をおこなった。 (3)現代ドイツにおける哲学教授法研究の取り組みをわが国に紹介するとともに、そこで広く論じられるテーマ<哲学的教養形成>の枠組みのなかで、(1)(2)で概念史的に考えてきた<常識と思弁の弁証法>を、その実践的可能性の観点から追究した。この研究成果は論文「主体と制度を媒介する哲学教育-ドイツの哲学教授法の展開から」(共著『人文学と制度』所収)にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間を通じての研究目的は、内容的には5割程度の達成度であるので順調に進展していると思われる。'本年度は博士論文の執筆に集中したため、今後はそこで扱った研究内容を公表することに力を入れたい。
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Strategy for Future Research Activity |
「(1)価値ある文献を厳選して質の高い翻訳を出すこと、(2)その過程で得られた知見や洞察をもとに独創的な論考を書き、公表すること」のダブルスタンダードを貫くことが本研究課題を推進するための最善の方策と考える。
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Research Products
(5 results)