2013 Fiscal Year Annual Research Report
スコットランド常識学派からドイツ観念論に到るコモン・センスの変容と啓蒙の思弁化
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12J07633
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
阿部 ふく子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 特別研究員(PD)
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Keywords | ドイツ観念論 / ヘーゲル / 思弁 / 啓蒙主義 / コモンセンス・共通感覚・常識 / スコットランド常識学派 / 哲学教育 |
Research Abstract |
本研究の目的は、コモン・センス(=常識、共通感覚)と思弁の関係性、ひいては両者のあいだで主体が果たしうる哲学的教養形成の可能性を、(1)スコットランド常識学派の影響が見られる近代ドイツの啓蒙主義、(2)その後のヘーゲルを中心とした思弁哲学、(3)現代ドイツの哲学教授法という三つの領域の体系的研究を通じて総合的に描き出すことである。本年度は、上記三つの領域について、以下の内容で研究を進めた。 (1)前年度に引き続き、イギリス経験論由来のコモン・センス概念を積極的に導入したドイツ啓蒙主義の通俗哲学者K・L・ラインホルトの文献、また当該概念についてアンビヴァレントな立場をとるヤコービの関連文献を読み解き、ドイツ啓蒙における「健全な人間悟性(常識)」の肯定的・否定的意義について考察した。ヤコービ研究を論考に具体化することが今後の課題となる。 (2)へーゲルの思弁哲学の核心的部分を担う「思弁的命題」の含意と意義の解明に取り組み、この研究成果の一部を日本ヘーゲル学会研究大会で報告した。ヘーゲルの思弁概念を言語との関係から考察し、思弁的なもの(全体・理念)の表現の限界と可能性を明らかにすることを目指した。 (3)昨年度に取り組んだ当該テーマに関する理論的・体系的研究の成果を踏まえつつ、本年度は実践的・方法論的なアプローチへと移行した。哲学教育を実践するなかで、学ぶ主体を既存の知識や常識から哲学的思考へと導くさいに、具体的にどのようなプロセスや媒介項があり、どのような方法が有効なのかということを、哲学教育研究者や異分野の研究者との交流・意見交換、また自らのセミナー実施などを通じて検討した。ドイツの哲学・倫理学教授法フォーラムの研究大会(ベルリン自由大学)では、ドイツの哲学教育実践に関する最新の知見が得られた。さらに新潟大学男女共同参画推進室のプロジェクトとも連携して中高生向けの哲学セミナーを実施し、アウトリーチ活動にも積極的に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年間を通じての研究目的は、内容的には7割程度の達成度であるので順調に進展していると思われる。本年度は翻訳、学術交流、アウトリーチ活動に集中したため、今後はそこから得られた成果発表に力を入れたい。
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Strategy for Future Research Activity |
①価値ある文献を厳選して質の髙い翻訳を出すこと、②その過程で得られた知見や洞察をもとに独創的な視点から成果報告を行ない哲学の進展に寄与することの二点を貫くことが本研究課題を推進するための最善の方策と考える。また、最終年度は海外渡航先での研究になるため、特にドイツにおける哲学・倫理学教育の実践に関して、受入研究機関で積極的に学術交流を行ないたい。
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Research Products
(4 results)