2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J07934
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中尾 麻伊香 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 放射線 / 原爆 / 広島 / 被曝 / ラジウム / 放射線医学 / 医学言説 / 温泉 |
Research Abstract |
本研究は、原爆投下以降、放射線の人体への影響がどのように知られていったのか、占領期を中心に放射線障害に関する言説の生成と流通の過程を解明することを目的とする。本年後は以下のように研究を進めた。 1.原爆投下以降の放射線障害に関する報道を検討した。なかでもローカルな文脈に着目し、広島において放射線障害を否定する言説があらわれた力学を検討した。この内容について2012年7月の「カルチュラル・タイフーン」のセッション「科学・技術の社会史」、同年12月の「アジア医学史国際会議」の放射線医学をテーマにしたセッションで発表した。 2.黎明期の放射線医学とその受容に関する調査を行った。明治末期から大正期にかけて、放射線医学には大きな期待が寄せられており、ラジウムは万能薬のように考えられていた。なかでも医学者たちがその効能を積極的に伝え、流行したラジウム温泉について、飯坂温泉、北投温泉、三朝温泉で調査を行い、ラジウムがそれぞれの温泉地においてどのように受容されたかを検討した。この内容については、次年度に学会発表及び論文投稿を行う。 3.戦後のポピュラー・カルチャーに関する調査を行った。特に戦時中から戦後にかけて人気を得ていた海野十三の小説にあらわれた放射能に関する描写と海野自身の原爆/原子力観の関係を検討した。この内容について、2013年3月の「戦争社会学研究会」のセッション「核とポピュラー・カルチャー」で発表した。 4.現在の放射線被曝をめぐるコミュニケーションに関する調査を行った。東京や福島で開催された放射線被曝に関する市民講座や研究会などに足を運んだ。福島では医師と住民とのコミュニケーションの場を見学し、聞き取りを行った。 以上、戦前、戦後、そして現代という時代を行き来しつつ検討することで、その変容を確認しながら、過去から現在まで通じる問題の構造を捉えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は本研究課題に関して2回の口頭発表を行なったほか、1本の論文を刊行することができた。計画以上に、幅広い視野を持った研究となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの研究で得られた成果に関して論文、著書にまとめることに力を注ぐ。
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