2013 Fiscal Year Annual Research Report
日本近代文学における変態心理学および変態性欲学の広範な影響について
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12J07971
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中原 雅人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 探偵小説 / 精神分析 / 小栗虫太郎 / 江戸川乱歩 / フロイト / ユング / ラカン |
Research Abstract |
本年度は、昨年度の江戸川乱歩に関わる研究結果を踏まえ、変態心理学および変態性欲学を吸収しっっ発展したと言うべき精神分析が、探偵小説に直接な影響をより広く与えていたことを複数なテクストにおいて明らかにした。 まず甲賀三郎が「新青年」(昭和3/3)において精神分析をいち早くとり扱ったことを自負していた作品が、『五階の窓(第四回)』(「新青年」大正15/8)であることを高い確率で推定した。次に、すでに先行研究でフロイトの影響が指摘されていた水上呂理『精神分析』(「新青年」昭和3/6)について、実際に原典となったフロイド、安田徳太郎訳『精神分析入門 下巻』(アルス、昭和3/4)を対照することで、それがいかに利用されたかを検討した。また小栗虫太郎については、いまだ精神分析に関わる典拠研究がなされていなかったが、『後光殺人事件』(「新青年」昭和8/10)においてフロイトの原典であるフロイド、林髞訳『フロイド精神分析大系 第13巻 超意識心理学』(アルス、昭和7/4)に依拠していることを確証した。それにより、これまで想定されていた以上に、「新青年」を中心とした当時の読者が精神分析に強い関心をもっていたことや、探偵小説における精神分析応用の水準が高いことが示唆された。これら研究結果は、神戸大学にて開催された日本文学協会第33回研究発表大会にて口頭発表した。 なお、昨年度の江戸川乱歩『心理試験』に関する研究結果は、論文として加筆し今年度「大衆文化」誌に発表された。同論文は日本近代文学の探偵小説研究に属するが、精神分析学における日本への受容史(大正期にユング理論がどう用いられていたか)や、現代精神分析の理論(ラカンのセミネール読解)にも関わり、広い分野で参照される可能性をもつ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
大正から昭和期の探偵小説につき、フロイトやユングの影響を予想以上に広い範囲で見出せたことは、変態心理学および変態性欲学が、精神病理を扱う精神分析と混合しながら消化されていった過程を考察するために重要な進展であったから。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究によって昭和初期にアルスなどから刊行された初期の和訳版フロイト全集が、探偵小説家らに広く読まれていたことが判明した。そこでその翻訳者の1人であるとともに探偵小説家でもあった木々高太郎(林髞)に焦点を当て、その翻訳および小説について精神分析理解の程度や、応用の仕方を読解する。また評価されにくい江戸川乱歩の短篇には、ラカンの理論を適用する見通しがある。さらにヒステリーやヒポコンデリーといった変態心理現象が、大正期から純文学(佐藤春夫など)や民俗学でいかに扱われていたかを、精神分析やディスクール分析の手法によって考察する。
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Research Products
(2 results)