Research Abstract |
文字を読んで理解する力は活字媒体から情報を得るために必要不可欠であり,学校教育で育成すべき能力の一つである。読解能力を習得する以前の子どもは,音声言語の理解,すなわち聴解を行なっている。そのため,就学後の児童は聴解から読解へと拡張することが求められる。本研究の目的は,第一に聴解から読解への拡張過程を解明すること,第二にその拡張過程に基づいて,視聴覚メディアを活用した読解指導法を提案することである。 今年度は,本研究の実施に必要不可欠な言語刺激を作成すること,そして,その刺激を用いて聴解と読解の認知過程を明らかにすることを目的とし,実験を行なった。まず,200~300字程度の説明的文章を25文章と,それぞれの文章理解の指標となる質問課題を各8間作成した。成人28名を対象に,作成した文章を提示し質問課題への回答を求めた。そして,質問課題の平均正答率が70~80%であった18文章を選定し,以後の実験に用いることとした。 次にこの言語刺激を用いて,成人27名を対象に,言語を視覚提示,聴覚提示,視聴覚提示した場合の理解成績を比較する実験を行なった。その結果,どの提示条件でも同等の理解成績となることが明らかとなった。ただし,課題へ回答するまでの反応時間は視覚提示条件よりも聴覚提示条件のほうが有意に長く,文章の記憶過程に違いがあることが示唆された。以上から,成人の読解と聴解の認知過程について,理解成績は同等であるが,文章内容を記憶から検索する処理は聴解よりも読解後のほうが効率よく行える可能性が示された。視聴覚提示条件の成績は,視覚のみ,聴覚のみでの提示よりも情報量が多いため,理解成績において加算的な効果が得られると予測していたが,他の2条件の成績との有意な差は生じなかった。この原因の一つとして,読解と聴解の処理の速度に違いがあり,同時に提示されると加算効果だけでなく干渉効果も起こる可能性があることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究の主要な目的である,実験のための言語刺激の作成と,その刺激を使用した成人への実験の実施を達成することができた。本研究のほぼすべての実験で使用する言語刺激は200~300字程度の文章であるが,妥当性と信頼性の高い文章刺激を複数作成するのは容易ではない。今年度はこの刺激の作成に注力し,等価な刺激の開発に成功した。この刺激によって,次年度以降の実験の実施も可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の二点に集約される。 一点目に,言語を視覚,聴覚,視聴覚提示された場合の理解過程を検討する追加実験を行なう。今年度行なった単一の実験ではこの検討が不十分であったため,視覚と聴覚の言語提示の時間差に着目し,これを操作した複数の実験によって,視覚,聴覚,視聴覚提示された言語の理解過程の相違点と共通点を探る。 二点目に,視聴覚提示された言語の理解時の眼球運動を測定する実験を行なう。上記の実験とあわせて,言語を視聴覚提示する際に最適な視覚提示と聴覚提示の時間差を検討する。 上記二点に加えて,今年度の成果を学会や論文によって発表する。
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