2014 Fiscal Year Annual Research Report
聴解から読解への移行過程の解明とその支援:視聴覚メディアによる学習効果の検討から
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12J07995
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
髙橋 麻衣子 東京女子大学, 現代教養学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 読解 / 聴解 / 視聴覚言語処理 / 表情 / ICT教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
学校現場にICT機器が普及し,新しい学習環境が構築され始めてきた。本研究の目的は,児童・生徒の学習効率を最大限に引き上げる視聴覚メディアの在り方や活用方法を実証し提案することである。 今年度は,昨年度に引き続き2つの研究を行った。研究1では文章理解における視聴覚提示の最適なタイミングを検討することを目的としており,昨年度までの実験から,視覚情報(文字)を聴覚情報(音声)よりも1文節分先行させて提示すると文章理解が促進されることが示されている。今年度は,参加者の注意を視覚もしくは聴覚情報のみに方向づけることで,視聴覚情報全体に注意を向ける場合よりも理解が促進されるのかを検討した。成人24名を対象とした2つの実験の結果,参加者の注意が視覚情報のみに向けられた場合に,視覚情報を先行して提示することの理解への促進効果が大きくなることが示された。一方で聴覚情報のみに注意を向けても同様の結果は得られなかった。これらの結果から,文字だけでなく音声によっても言語情報を提示できる電子教科書を効果的に活用するためには,学習者が文字を視覚的に処理した後に音声情報を提示するといったハード面での仕組みが必要であるととともに,学習者の注意を視覚情報に向けるように明示的に指導する必要があることが考えられた。 研究2では,インターネットなどを介した授業や会議を想定し,発話者の表情が観察者の発話内容の理解に及ぼす影響を検討することを目的とした。昨年度の実験結果から,発話者が喜び顔であると怒り顔や中立顔である場合よりも理解が促進されることが示されている。今年度は,昨年度と同様の3種類の感情価を含む音声のみの提示で同様の結果が得られるかを検討した。成人18名を対象とした実験の結果,音声のみでは感情による理解成績の差は生じず,発話者の表情が観察者の理解に影響する可能性を指摘できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の主要な目的である,言語情報を視聴覚提示する際の参加者の注意の方向づけの効果を検討する2つの実験の実施とデータの分析が完了した。実験の結果から,文章を視聴覚提示する際には学習者の注意を視覚情報に向け,聴覚情報は補助的なものとして利用することで理解がより促進されることが考えられた。この結果と昨年度までの成果を合わせて,視聴覚提示された言語情報の理解過程についてのプロセスモデルを構築し,効果的な視聴覚メディアの活用方法を提案することができた。これらのデータをまとめて国際学会で発表する準備も整っている。 さらに,研究2の追加実験を実施し,感情価を含む音声のみの提示では文章理解に影響することがないことも確認できた。この実験結果は,昨年度の発話者が喜び顔である場合に観察者の発話内容の理解が促進されるとの結果が,発話音声に含まれる感情価ではなく発話者の表情によって引き起こされたものであるとの解釈を裏付けるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の二点に集約される。 一点目は,言語情報が視聴覚提示された場合の学習者の視線を計測し,音声と視点のズレを検討することである。これまでに実施した研究1において,言語を視聴覚提示する際には視覚情報を1文節分,聴覚情報に先行させて提示すると文章理解が促進されることが示されている。今後は文章提示状況を日常場面に近づけて,文章全体を視覚的に提示し,同時にその発話音声が提示される状態で参加者の眼球運動を測定する実験を行う。そして,参加者の視点が提示された音声よりも先行しているのか,先行しているとしたらどの程度であるのか,そして理解成績の高い読み手はどのような眼球運動を行なっているのかを検討する。これらの成果から,学習効率を最大限に引き出す視聴覚メディアの在り方を提案する。 二点目は,研究2のこれまでの実験で得られた観察者の眼球運動のデータを詳細に分析することである。観察者が発話者の表情のどこを注視しているのか,注視箇所は観察者の表情によって異なるのか,そして,注視位置によって理解成績に差が生じるのかを丹念に分析し,必要に応じて追加実験を行う。これらの結果をもとに,ネット中継やビデオによる授業での教師役(発話者)の表情の在り方やその提示方法について提案する。 上記二点に加えて,これまでの成果をまとめて国内外の学会で発表し,英語論文としてまとめて国際誌に投稿する。
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Research Products
(1 results)