2012 Fiscal Year Annual Research Report
胎生期における脂肪酸摂取比の乱れが大脳皮質形成および脳機能に及ぼす影響の解析
Project/Area Number |
12J08042
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
酒寄 信幸 東北大学, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 脂肪酸 / 大脳新皮質 / 神経幹細胞 / ニューロン分化 |
Research Abstract |
神経幹細胞は自己複製能と多分化能を持つ細胞として定義される。胎生期において、神経幹細胞はまず自己増殖を繰り返し、後に神経細胞への分化、アストロサイトへの分化が順序だって行われる。大脳新皮質形成において、神経細胞は胎生期にその産生が終了し、胎生後期から生後にかけて移動し、最終的に6層からなる大脳新皮質を形成する。大脳新皮質6層はそれぞれ異なる機能を担っており、様々な高次機能の中枢として機能している。 先進国において見られる、n-6脂肪酸摂取過多かつn-3脂肪酸摂取不足という栄養状態が胎生期における大脳新皮質形成に及ぼす影響を解析するため、n-6脂肪酸とn-3脂肪酸がバランスよく配合されたコントロール餌、またはn-6脂肪酸過多/n-3脂肪酸欠乏餌(n-6/n-3餌)を、妊娠C57/BL6マウスに投与した。胎生14日目において胎仔脳の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーを用いて解析したところ、n-6/n-3餌を与えた胎仔脳において、n-6脂肪酸が増加し、n-3脂肪酸が減少していた。このことから、餌中の脂肪酸が母獣を介して胎仔の脳に供給されていることが確かめられた。次に、上述した胎仔脳における大脳新皮質形成の組織学的解析を行った。大脳新皮質の厚さ、未成熟な神経細胞層の厚さ、成熟神経細胞層の厚さの減少が確認されたが、神経幹細胞層の厚さに変化は見られなかった。さらに、大脳新皮質の神経細胞層減少の原因を探るため、神経前駆細胞層、細胞増殖、細胞死をそれぞれ解析したが、いずれも有為な変化は認められなかった。このことから、神経細胞への分化が障害を受けている可能性が考えられた。 本実験結果は、先進国においてみられる脂肪酸摂取状況により、脳形成におけるニューロン分化が影響を受ける可能性を示唆しており、先進国における脂質栄養学の発展に寄与できる可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
n-6/n-3餌摂取により胎仔大脳新皮質形成に障害が認められ、ニューロン分化が影響を受けている可能性が示唆された。このように、すでに具体的な表現型を見いだしており、今後は作用機序の解析を中心に研究を進めることができる。また、現在、Fat-1マウスを用いた、餌の組成を変えずに胎仔脳内の脂肪酸組成を変える実験や、質量分析系を用いた脂肪酸代謝産物の一斉定量などを開始しており、当初の計画通り順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
餌を用いた実験では多様な混交要因が発生してしまう。そこでFat-1マウスを用い、餌の組成を変えずに胎仔脳内の脂肪酸組成を変える実験を開始している。現在、胎生14日目の組織サンプルが準備できた段階である。今後、上述したような組織学的解析を進めていく。 また、どのような分子が大脳新皮質形成を妨げたのかを解析するため、胎生14日目の胎仔脳を質量分析系を用い、n-6およびn-3脂肪酸の代謝産物の一斉定量を行っている。すでに分析は終了しており、現在は結果をまとめている段階である。
|
Research Products
(7 results)