2013 Fiscal Year Annual Research Report
胎生期における脂肪酸摂取比の乱れが大脳皮質形成および脳機能に及ぼす影響の解析
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12J08042
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
酒寄 信幸 東北大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 脂肪酸 / 大脳新皮質 / 神経幹細胞 / ニューロン分化 |
Research Abstract |
n-6脂肪酸摂取過多かつn-3脂肪酸摂取欠乏という栄養状態が大脳新皮質形成に及ぼす影響を解析するため、コントロール餌またはn-6脂肪酸過多/n-3脂肪酸欠乏餌(n-6/n-3餌)を、妊娠C57/BL6マウスに投与した。仔の大脳新皮質を、層構造形成が終了している生後10日目において解析したところ、下層ニューロンには有為差が見られなかったものの、上層ニューロンの数が有為に減少していた。昨年度の結果と合わせて考えると、n-6過多/n-3欠乏状態によって神経幹細胞の上層ニューロンへの分化能が低下している可能性が考えられた。そこで上層ニューロンへの分化が始まる胎生14日目において大脳皮質原基から神経幹細胞を、ニューロスフェア法を用いて培養し、その分化能を解析したところ、n-6/n-3餌投与群においてニューロン分化の低下が認められた。これにより、n-6過多/n-3欠乏状態では神経幹細胞の上層ニューロンへの分化能が低下し、大脳新皮質形成が妨げられたと考えられた。 続いてn-6脂肪酸をn-3脂肪酸に変換する酵素であるFat-1を発現するFat-1マウスを用いた解析を行なった。Fat-1マウスにn-6/n-3餌を与えたマウス脳の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーを用いて解析したところ、野生型マウスにコントロール餌を与えた群と比べてn-6/n-3比に変化は認められなかったものの、n-3脂肪酸の一つであるEPAの増加とDHAの減少が認められた。続いてこのFat-1マウスの大脳新皮質形成を生後10日目において組織学的に解析したところ、野生型マウスにコントロール餌を与えた群と比べて下層ニューロンの数が増加し、上層ニューロンの数が減少していた。これはn-6/n-3比ではなく、EPA/DHA比による影響と考えられる。 最後にどのような脂肪酸代謝産物が本表現型を引き起こしたのかを検証するため、質量分析を用いて脂肪酸代謝産物の網羅的定量を行なつた。するとシトクロムP450による代謝産物であるエポキシドの量に顕著な差が見いだされた。これによりエポキシドが大脳新皮質形成に重要と示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
n-6/n-3餌摂取により生後脳においても大脳新皮質形成に障害が認められ、神経幹細胞のニューロンへの分化能が低下していることまで明らかにすることができた。すでに表現型とその機序を明らかにできており、今後は脂肪酸代謝産物の解析を中心に研究を進めることができる。また、Fat-1マウスを用いた、餌の組成を変えずに胎仔脳内の脂肪酸組成を変える実験や脂肪酸代謝産物の網羅的定量も終了しており、当初の計画通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
脂肪酸代謝産物の一斉定量系において同定されたエポキシドについて、実際に神経幹細胞のニューロン分化に影響を与えるかは不明である。そこで今後は培養した神経幹細胞にエポキシドを添加し、ニューロンへの分化能に対する影響を解析していく。 また、Fat-1マウスを用いた解析により、予想に反してn-6/n-3比ではなくEPAの増加による顕著な表現型が認められた。本研究の目的はn-6/n-3比による大脳新皮質形成への影響の解析であるため、今後はFat-1マウスではなく野生型マウスを用いた解析を中心に行なっていく。
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Research Products
(9 results)