2012 Fiscal Year Annual Research Report
COデヒドロゲナーゼを指向した新規金属硫黄クラスターの合成
Project/Area Number |
12J08106
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
谷藤 一樹 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | [Fe_1S_1]クラスター / 高酸化状態 / 骨格変換反応 / アミド配位子 / ルイス酸 |
Research Abstract |
年次計画に従い、高酸化型[Fe_4S_4]クラスター、[Fe_4S_4{N(SiMe_3)_2}_4](1)を前駆体とした反応から[Fe_5_S_3O_2]クラスターの合成に取り組んだ。目的化合物の単離には至らなかったが、添加する試薬を限定して反応を行う中で、[Fe_4S_4]クラスターが[Fe_2S_2]クラスターへと分割される新しい現象を見いだした。 [Fe_4S_4{N(SiMe_3)_2}_4](クラスター1)は、過剰量のピリジンを加えると定量的に二分割され、[Fe_2S_2{N(SiMe_3)_2}_2(py)_2](2,py=pyridine)を与えた。溶液中でこの反応は可逆であることを^ 1H NMRにより確認している。さらに、逆反応も可能であり、クラスター2に対してトリス(ペンタフルオロ)ボラン(BCF)を1当量作用させたところ、BCFとピリジンのアダクトとともにクラスター1が得られた。^1H NMRによってこれら以外の副生成物は観測されなかったため、BCFはピリジンのみを選択的に捕捉しており、これはクラスター2の鉄ピリジン間の結合が比較的容易に切断されることを支持する結果といえる。 クラスター1を二分割する反応は、その[Fe_4S_4]^4+という高い酸化状態が不安定であること、生成する[Fe_2S_2]クラスターが[Fe_2S_2]^<2+>の安定な酸化状態であることに起因して進行する。実際、クラスター2に対して還元剤を作用させると、ピリジンは捕捉剤を必要とせずに解離して[Fe_4S_4{N(SiMe_3)_2}_4]^<2->を生じた。さらに、クラスター2に加える還元剤を0.5当量とすると、[Fe_4S_4{N(SiMe_3)_2}_4]^-を生成した。得られたクラスターは[Fe_4S_4]^<2+,3+>の酸化状態をとっており、Fe^<2+>とFe^<3+>の混合原子価となる[Fe_2S_2]^+状態が不安定なため自発的に[Fe_4S_4]骨格への集積が起きたと考えられる。 配位子の付加・脱離と酸化状態の変化によって[Fe_4S_4]および[Fe_2S_2]骨格間を行き来できる反応は、これまでに前例がない。一方で、遺伝子の転写制御に関わるタンパクの中には、酸化還元によって[Fe_4S_4]と[Fe_2S_2]クラスター間で骨格構造を変化させ、さらにこれに伴う構造変化を生体機能発現に用いるものが知られている。これらの分子基盤を明らかにする上で、本反応系は酸化状態と骨格構造の安定性について有用な知見を与えると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、高い酸化状態を有する[Fe_4S_4]クラスターを前駆体とした、新規金属硫黄クラスターの合成法確立を目的としている。本年度の研究においては、当初のターゲット化合物とは異なるものの、これまでに全く報告例の無い[Fe_4S_4]骨格と[Fe_2S_2]骨格の相互変換反応を見いだしている。これは、クラスターの骨格を制御する生化学的機構と関連した興味深い現象である。
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Strategy for Future Research Activity |
[Fe_4S_4{N(SiMe_3)_2}4]と中性配位子の反応から[Fe_2S_2]型のクラスターが生成することを踏まえ、ターゲット化合物の合成ルートとして、単離した[Fe_2S_2]クラスターを用いた反応検討を行う。具体的には、[Fe_2S_2{N(SiMe_3)_2}_2(X)_2](X=tetramethylthiurea,pyridine)を前駆体に、このクラスターからのN-ヘテロ環カルベンによる脱硫と続く自己集積化によって目的とするクラスターが得られるのではないかと考えている。 また、金属硫黄クラスターを用いた反応開発のアプローチの一つとして、クラスターのタンパクへの導入ならびに得られたタンパクの活性評価に取り組む。この課題は、生化学を専門とする他研究室との共同研究によって行う予定である。
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Research Products
(8 results)