2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J08116
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田島 裕康 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 情報熱力学 / LOCC / 多体量子系 |
Research Abstract |
本研究は、以下の三つを主たる目標にしている。 (I) 多体系のシングルコピーでのdeterministic LOCC (d-LOCC)の必要十分条件の導出 (II) 多体系のマルチコピーでのd-LOCCの必要十分条件の導出と、それを用いたエンタングルメントの定量化 (III) 情報の、エンタングルメントの一側面としての再定式化。すなわち、多体量子系の内部での情報の振る舞いをエンタングルメントの生成消滅および移動で捉える事ができるような枠組みの導出 これら三つの目標に対し、本年度は特に(I)と(III)について研究を行い、(I)について二つ、(III)について一つの結果を得た。 (I)に関する結果 : 4キュービット純粋状態に対する一般化Schmidt分解の導出、及び、3キュービット混合状態に対する解析計算可能なエンタングルメントパラメータの導出 シングルコピーのd-LOCCの必要十分条件の導出には、Schmidt分解の一般化とエンタングルメントパラメータが必要不可欠である。本年度は、多キュービット系のSchmidt分解とエンタングルメントパラメータについて研究を行い、4キュービット系に対する一般化Schmidt分解の導出と、3キュービット混合状態に対する解析計算可能なエンタングルメントパラメータの導出に成功した。 (III)に関する結果 : 熱力学的観点からのエンタングルメントと情報の等価性の立証。 観測とフィードバックを含んだ熱力学過程(情報熱力学過程)において、従来の熱力学第二法則の代わりに、情報熱力学不等式(沙川不等式)が成立する事が知られている。この不等式のQC-相互情報量IQCは、観測が古典観測の場合、系と観測結果の間の相互情報量になることが知られている。一方で、観測が古典観測でない場合、IQCの物理的な意味は不明瞭であった。そこで、新たな情報量として、観測の際のエンタングルメントの移動量というはっきりとした物理的意味を持つIEを与え、新しい情報熱力学不等式を与えた。新しい不等式は、沙川不等式(1)よりも緩い等号達成条件を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した通りの進展の仕方をしているわけではないが、その目的である「情報の物理的意味の把握」という点において、予定を上回るペースで結果を上げている。この2点を勘案して、②の評価が適当であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
情報の量子物理学的意味を調べる本研究課題においてもっとも重要な問題の一つに、「如何にして問題を操作的なものにするか」という物があった。本年度の研究結果はこの問題のひとつの解決を与えた点で、極めて大きな意味を持つ。すなわち、熱力学的繰作に対しての意味付けを考える事で、情報をエンタングルメントの移動量として量る事が可能となった。来年度以降はこれを更に押し進めて行く。すなわち、情報の熱力学的意味にとどまらず、情報理論の熱力学的意味を探って行く。情報理論は一つの完成された数学体系であるため、これを熱力学的系に応用する事で、従来において解析不能であった統計力学からの熱力学の再現を可能にするのではないかというアイデアが背景にある。
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Research Products
(10 results)