2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J08116
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田島 裕康 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | エンタングルメント / 情報処理のエネルギーコスト / 情報熱力学 / ランダウアー原理 / 情報理論 / 熱機関効率 / 有限粒子の熱力学 / 有限時間の熱力学 |
Research Abstract |
(i)情報処理のエネルギーコストをエンタングルメント移動量を用いて量る (ii)情報理論を用いて、有限粒子数、有限動作時間の熱機関効率上限を求める という二つの研究を行い、以下に示す結果を得た。 〈研究課題(i)〉(情報処理のエネルギーコストのエンタングルメント移動量による記述) 観測、情報消去の二種類の情報処理を等温過程として扱い、昨年度求めたエンタングルメント移動量IEを用いて、これらの情報処理を行うのに必要なエネルギーコストの不等式を導出した。 こうした不等式は沙川-上田によってQC-相互情報量を用いて与えられていたが、我々の不等式は彼らのそれよりもtightになっている。こうした、より厳しい不等式を用いる事によって、測定が非古典的な場合には、情報熱力学は厳密な不可逆性を示す事も示された。 〈研究課題(ii)〉(有限粒子、有限動作時間の熱機関効率上限の情報理論を用いた導出) 熱機関はエンジン、発電機、エアコンなど、現代文明の根幹をなす機器として日常のあらゆる場所で使われている。しかし、熱機関効率に関する研究には、以下の様な3つの未解決問題が残されていた。 1. カルノー効率の達成証明の、統計力学からの導出 2. 有限粒子の熱機関の一般的な効率上限。 3. 有限時間の熱機関の一般的な効率上限。 そこで私は、上記3問題を一気に解決する研究計画を建て、シンガポール国立大学の林正人教授とこれを実行、3問大全てを解決した。具体的には、情報処理機械と熱機関との間の対応関係に着目し、熱機関による熱浴からの仕事の取り出しを、ある種の有限乱数列の変換と捉える事で、有限粒子及び有限時間の熱機関の効率上限を量子情報理論の枠組みで議論できる形に落とし込み、情報理論の最先端の結果である高次漸近論の計算手法を用いる事で、達成可能な効率上限を求めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は前年度の研究を受け継ぎ、それを大幅に発展させた。とくに有限粒子、有限時間の熱機関効率の上限導出は、学問的にも産業的にも極めて重要な意味を持つ、正にbig resultと言って良い結果である。有限粒子の熱機関はナノマシンの開発、有限時間の熱機関はエンジンや発電機の性能向上等の応用を期待できる。こうした結果を与える事が出来たので、本年度の評価は①以外にあり得ないと自信を持って断言できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度の研究として、本年度の研究の深化・発展を予定している。本年度に導いた有限粒子・有限時間の熱機関効率を、それぞれ発展させて、以下の研究を行う。 1. シングルショットの熱力学・情報熱力学 これによって、ナノマシンの開発・及び生体内分子の機能の理解が可能になる。 2. 有限時間の熱機関効率上限の達成可能性の証明、及びこれを達成する具体的な熱機関の構成 これによって、「理論上最高の熱機関」を現実に製造する事が可能になる。 3. メゾスコピック系の熱力学の漸近構造の解明 これによつて、熱力学的極限において同値なる第二法則の諸表現が、メゾスコピック系では不一致になる事を証明し、「メゾスコピック系の熱力学」を構築する
|
Research Products
(8 results)