2012 Fiscal Year Annual Research Report
毒物・薬物代謝系の進化-CYP遺伝子のヒト特異的多様性創出メカニズムの解明-
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12J08166
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
川嶋 彩夏 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 分子進化 / 霊長類 / 偽遺伝子化 / 解毒 / 生理活性物質 / 適応 / 生息環境 / 食性 |
Research Abstract |
【研究の内容】 本研究では環境の変化に対する生物の生理機能の進化を理解するために、解毒機構の大部分を司るCytochrome P450(CYP)遺伝子に着目した。CYP遺伝子はほぼ全ての真核生物が保有しており、その数や種類は生物種によって様々である。この違いは個々の生物において、それぞれの生息環境や食性によってCYP遺伝子が適応的に進化してきた結果生じたものと考えられる。そこで本研究ではCYP遺伝子が機能面から二つのタイプに分けられることに着目し、ヒトの保有する全てのCYP遺伝子について他の脊椎動物との種間比較を行うことで、その進化的特性を明らかにすることを試みた。 結果、脊椎動物全体でCYP遺伝子は生理活性物質合成型と解毒型の二つの種類に分類可能であることがわかった。また前者は脊椎動物全体を通してその数や種類は類似しているのに対し、後者では各々の脊椎動物でその数や保有する種類が異なっていることがわかった。ここでは遺伝子重複や機能喪失(偽遺伝子化)が頻繁に観察された。さらに、合成型遺伝子では機能的な制約は強いことを示したのに対し、解毒型では機能的な制約が緩んでいることがわかった。 【研究の意義・重要性】 以上より、脊椎動物の生理活性物質生合成型では体内の環境を恒常的に保持するためにCYP遺伝子を保守的に進化させてきたのに対し、解毒型ではそれぞれの生物種の生息環境や食性に適応的にCYP遺伝子を進化させ、体外からの毒によるリスクを減少させたと推測される。つまり現在のヒトのCYP遺伝子のバリエーションは脊椎動物の出現以前にすでに存在していたが、対応する基質の違いにより異なる進化の様相を維持してきたことが示唆された。 現存の生物の遺伝子情報を用いて、過去の地球環境の変化と生物の進化の過程との関係を解明することで、生物の生理機能の一端を理解できる点が本研究の重要な点であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は昨年度中の論文の投稿を目指していたが、当初予定していたよりも多くの結果を得ることができ、議論が深まった。そのため、投稿時期は遅れてしまったが、当初の目的よりも広く結果を得られた点では計画以上の進展が見られたと考えられる。総じて、現在までの研究は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は当初の予定通り、ヒトCYP遺伝子の機能分化の過程について研究を行う。ここでは、CYP遺伝子を基質認識部位(SRS)とそれ以外の部位(非SRS)に分けて、この二つの領域が受けている自然選択の違いについて明らかにすることで、それぞれのCYP遺伝子の基質認識部位の進化や特徴を明らかにすることを目的としている。SRSの領域はすでに決定されているものが少なく、それ以外のものに関してはSRSの予測から始めなければいけない。さらに、昨年度までの結果からCYP遺伝子は基質の違いによって進化の様相が違うこともわかっていため、この分類に着目してSRSの進化パターンについても考察したい。そのため、着目するCYP遺伝子を絞り込み、ヒト集団間でのSRSの違いについて解明する予定である。
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Research Products
(2 results)