2012 Fiscal Year Annual Research Report
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12J08333
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 禅之 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 自己 / 現象的意識 / 意識の統一 / 分離脳 |
Research Abstract |
研究実施計画に基づき、本年度は自己の形而上学的側面に関して研究を進めた。本研究の第一の目的は、幅広く、錯綜したあり方をしている自己概念の分析を行うということであった。その目的を達成するために、主に3つの研究を行った。なお、これら3つの研究の前提となっている考えは、自己という概念と現象的意識概念には密接なつながりがあるということに他ならない。(1)経験的知見を取り入れながら、意識の構造の変化を分離脳という事例に即して考察した。近年の分離脳についての哲学的研究が示唆するところによれば、分離脳被験者の意識構造は3つの有力なモデルのいずれかに収束すると考えられている。私はこれらいずれのモデルも決定的なものではないことを指摘し、代替案を提案した。(2)経験的知見から示唆される自己についての形而上学的パズルを明確化した。(1)の成果から予見できるのは、自己についての分裂の問題は現実に生じうるということだ。私はこのパズルの解決法を整理・検討した上で、可能な解決法の示唆を行った。(3)自己についての形而上学的本性の一端を、意識の統一と関連づけて考察した。素朴に考えると、意識ないし心が統一されているということは、1つの自己がそこに存在するための1つの基準であるように思われる。私は、意識ないし心を実現している最小の基盤の数を1つの自己の基準とすべきだというM.Bajakianの立場も、この素朴な立場も、いずれもうまくいかないのではないかということを論じた。このように、本年度は経験的なレベルから形而上学的なレベルへとつながるような自己概念の探究を進めた。本年度の成果はまだ萌芽的なものが多いが、いずれも意識と自己の問題について、近年の研究動向を踏まえた新たな観点から分析を行おうと試みたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究の成果を論文という形で発表することができなかった。しかしながら、学会やワークショップで口頭発表を行い、その成果を反映させながら、来年度以降論文という形で成果を発表することが現段階で見込まれている。無自己説が軸になっているわけではないが、自己概念の探求は進展を見せているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は自己概念の探求の倫理的帰結を論じることになっているが、どの程度まで倫理的な諸問題に踏み込めるかまだ見通しが立っていない。むしろ、本年度の研究を継続させつつ、自己概念の検討を続け、倫理的諸問題について考察するための基盤を確立したほうがよいかもしれない。また、無自己説の主要な論者であるT.Metzingerの思想の核心部分にまで踏み込んで,その含意を考察するというレベルにまで至れなかったことが本年度の大きな課題である。意識それ自体の本性の問題、意識の統一の経験的裏付けなどの吟味も含めて、この課題を達成するためにはまだまだなすべきことが多いが、本年度の研究を継続・発展させることで対処していきたい。
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Research Products
(3 results)