2013 Fiscal Year Annual Research Report
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12J08422
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
商 兆琦 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 近代性 / 近代の危機 / 田中正造 / 足尾鉱毒事件 / 伝統社会 / 歴史社会学 / 粱漱溟 / 農村問題 |
Research Abstract |
1840年以降、古い体質からの脱皮を図ろうとした東アジア世界は、如何にして近代的諸原理に立脚する「近代性」を建てながら、同時にその「近代性」に内在している様々な欠陥を克服し、いわば「近代の危機」を乗り越えられる「現代性」の成立を促そうとしているのかということは、本研究の根本的な関心である。本年度の研究実施状況は、次の四部分に分けられる。 まず、正造の「人間像」に接近するために、正造の生活環境と交遊関係を重点的に考察した。田中正造の自認した「下野の百姓」の「百姓」の意味検証を通じて、彼の服装、財産、そして経済状況について考察する。その後、正造の交遊関係を整理し、その社会的ネットワークの解明を試みた。以上の研究成果が「田中正造と下野」を題にして、『思想史研究』第17号(2013年4月)に発表された。次に、2013年5月30日―6月1日、渡良瀬川での調査活動を行なった。田中正造の有力の支援者の子孫を訪問し、渡良瀬川地域に残された田中正造の足跡を辿った。文献や資料などだけでは及ばない思想の生成現場へのアプローチを実現した。最後、下野新聞社のインタビュを受けた。「正造から中国問い直す」という関連記事が、2013年6月25日の「下野新聞」に掲載された。第三、2013年10月19日に仙台市の東北大学に行われる「日本思想史学会2013年度大會」において、本研究者は、田中正造の人物像や思想像を彼の生きた時代の文脈に置き直すという作業がおろそかになったことを指摘し、正造の「人間像」を歴史の文脈に即して明らかにする必要を説いた。最後、東アジア近代化における正造や足尾鉱毒事件の意義を問うために、中国の視座が必要だと思う。本研究者は、2013年12月25日から2014年1月15日まで、台湾の中央研究院において、「農村再生」や「近代社会の構築」などの問題を考えていた中国近代知識人の梁漱溟に関する調査研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年における本研究は、鉱毒事件に関する思想史問題の検討準備が整えた上で論文の執筆を始め、以下の作業を行った。 一方、正造の思想と実践、鉱毒事件の背景と発展、明治政府の国策と対策、知識人たちの反応とその思想根源などをそれぞれの単位に取りまとめ、研究の課題を細分化し、小さいテーマ毎に一つずつ検討している。たとえば、「鉱毒事件」をめぐって、「天保の老人」、「明治の青年」のそれぞれの反応を示した。それらを比較し、如何なる相違点があるかなどを考察しようとする。 また、先行研究を踏まえ、必要となる「近代性」の先行研究を簡単に考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目と2年目の研究成果を基礎として、田中正造・鉱毒事件の歴史像をできるだけ客槻的に描き出す。田中正造と同時代の知識人との比較研究を通じて、正造や明治知識人たちが生きた時代の思想状況とその思想の在り方の理解に力を入れる。田中正造・鉱毒事件をその時代の流れの中で捉え、その背景にも考察を加え、東アジアの「近代化」、特に「近代性」などの問題を見直したい。 研究方法としては、文献調査、フィールドワーク、そして海外調査を採用するつもりである。
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Research Products
(2 results)