2012 Fiscal Year Annual Research Report
エラーからの学習におけるドーパミン神経系の機能的役割の解明
Project/Area Number |
12J08448
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
川合 隆嗣 関西学院大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 罰 / 学習 / サル / 神経細胞 / 前部帯状皮質 / 外側手綱核 |
Research Abstract |
本研究の目的は、罰回避学習に関与する神経生理学的メカニズムの解明である。この目的の達成のために、本年度(平成24年度)は、罰(嫌悪的事象)を避ける行動を学習中のマカクザルの脳から神経細胞活動を記録し、解析を行なった。具体的には以下の通りである。まず、報酬を得るための試行錯誤学習課題をサルに学習させた。この課題では、被験体の前に置かれたモニターに二つの選択肢(ターゲット)が呈示される。被験体はサッカード(眼球運動)によってどちらかのターゲットを選択する。二つのターゲットには正解と不正解が割り当てられており、正解のターゲットを選択すると報酬としてリンゴジュースが与えられる。ただし、どちらのターゲットが正解かは明示されない。そして、正解ターゲットの位置は、一定の試行数毎に入れ替わる。したがって、被験体は自分の選択に与えられた結果(報酬もしくは無報酬)から、現在の選択を続けるか変えるかを決定する必要がある。ただし、この課題では正解のターゲットを選択しても50%の確率でしか報酬が得られない。そのため、正解ターゲットを選択し続けた場合でも、相当数の無報酬(すなわち罰)を経験することになる。これはターゲットが不正解の場合との弁別が難しいことを示している。被験体は、無報酬がどれ程連続したか、という情報をもとにターゲットの正解/不正解を判断しなければならない。実際に、このような条件下では無報酬の繰り返し回数が多い程、サルが選択を変える傾向が強くなるということがわかった。この行動傾向と脳活動の関係を知るために、前部帯状皮質(ACC)と外側手綱核(LHb)から神経細胞活動を記録した。その結果、両領域の大多数の細胞が無報酬に対して強く活動することがわかった。加えて、無報酬の繰り返し(履歴)がACCの細胞活動に反映されていることを発見した。また、ACCの細胞はサルの選択を予測するような活動も示した。LHbとACCの神経細胞活動は学習に深く関与するとされていたが、従来は互いの活動が類似しているという知見しかなかった。今回の発見は、これまで明らかでなかった二領域間の機能差を発見したという点で非常に重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の遂行には、サルの取扱い方法を学び、彼らを訓練することからはじまり、神経細胞活動を記録し解析することまで含まれるが、これらはいずれも非常に高度な技術と長い時間を要する。当初はより長期の実験期間を予想していたが、結果的に本年度はサル一頭からデータを取り終わるばかりでなく、二頭目(データの信頼性・再現性確保のため、通常二頭の実験が必要とされる)の訓練にまで着手できた。これは予想外に大きな進展であったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、現在実験中の二頭目のデータ記録を完了させることを目的とする。可能であれば、次年度(平成25年度)中に、論文執筆まで進展させたい。また、次年度はこれまで得られたデータを学会等で発表し、広く意見を仰ぎたいと考えている。場合によっては、神経細胞記録の記録方法や記録部位を変えて、データをより洗練させることにも積極的に取り組みたい。
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Research Products
(1 results)