Research Abstract |
抑うつ者の経験する侵入思考の発生メカニズムを解明し,侵入思考に対する新たな介入法の開発に向けたエビデンスを蓄積するために,本年度は,侵入思考の発生に背景に寄与すると考えられるメタ認知的信念と抑制意図という2つの要因に注目し,各要因と抑うつとの関連について検討を行った。 まず,本年度は,特定の認知過程の効果や結果に関する信念であるメタ認知的信念と,侵入思考頻度の関連についての検討を行った。その結果,集中的気晴らしをすることでかえってネガティブな気分や思考が生じるという内容の信念である"逆説的効果に関するメタ認知的信念"の確信度が高まるほど,経験される侵入思考頻度が高まることが示された。さらに,抑うつ者は,思考抑制中により頻繁に侵入思考を経験することを通して,"逆説的効果"に関するメタ認知的信念の確信度を高めていることが示された。 また,本年度は,考えないようにするという意図である抑制意図と,侵入思考頻度の関連についても検討を行った。その結果,抑うつの程度が高いほど,抑制意図へのアクセスが促進されており,さらに,そのアクセスの高まりは,侵入思考頻度を反映すると考えられる,抑制対象へのアクセスを促進することが示された。この結果から,抑うつ者が集中的気晴らし時にネガティブな侵入思考をより頻繁に経験する背景に,抑制中の抑制意図が関与することが改めて示された。 さらに,プライミング手続きを用いて,抑うつと抑制意図と抑制対象との連合強度の関連について検討を行った結果,抑うつは,抑制意図と抑制対象との連合を強めるのではなく,抑制意図へのアクセスの程度を促進している可能性が示唆された。しかしながら,方法論上の問題点も明らかとなり,抑うつと抑制意図の関連について,異なる実験的操作を用いてさらに検討を行う必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,メタ認知的信念が侵入思考の発生を促すこと,また,抑うつ者の侵入思考経験が,メタ認知的信念をより強固にすることが示され,侵入思考の発生に関わるメカニズムの解明に貢献したと考えられる。また,実験的操作を通して,抑制意図が侵入思考の発生において果たす役割が明確になり,それを検証するためのパラダイムの精緻化が可能となった。 これらの点から,研究は計画通り順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,思考抑制方略のひとつである,集中的気晴らしに関するメタ認知的信念のみを扱ってきた。しかしながら,抑うつ者の経験する侵入思考の発生は,集中的気晴らしを含むより上位の概念である思考抑制に関するメタ認知的信念によって影響を受けている可能性があると考えられる。そこで,次年度は,これまで利用してきた研究手法を援用し,思考抑制に関するメタ認知的信念と侵入思考の関連について検討を行う必要があると考えられる。また,抑制意図が侵入思考に与える影響についても,今年度の研究で用いた,抑制意図に関連する語を短時間呈示するというプライミング手続きでは,抑制意図を十分に喚起することができない可能性がある。そこで,次年度は,より直接的に抑制意図を高める操作を行うことで,抑制意図と侵入思考の因果関係についての検討を行う。
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