Research Abstract |
軸研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(ASD)傾向のある高校生に教師が適切に関わることを可能にするために,教師向けの心理教育プログラムを開発することである。本研究の心理教育プログラムは,ASDの障害特性についての理解度を客観的に測定するために開発された,自閉症スペクトラム障害理解度チェックリスト(C-CLAS;酒井他,2011)を使用し,有効性が客観的に示された内容で構成される。開発するプログラムの根拠となるデータは現職の高校教師から得るため,本プログラムは現職の教師向け研修に有用であることはもちろんのこと,教員養成課程の授業内容の一部としても活用できる可能性をもち,今後の高等学校の特別支援教育の推進において重要な示唆を与え得る。 これまでの研究ではC-CLAS(酒井他,2011)を用い,高等学校教師におけるASD理解度の現状と理解度に関わる課題について整理してきた。その結果,通常の学級に在籍しているASD傾向の生徒の存在に適切に気づいている教師のASD理解度の最小値に対して,高等学校の教師のASD理解度の平均値が下回っていることを明らかにした(酒井他,2012)。また,ASD傾向の学生を担任する高等学校教師における,ASD理解度,応用行動分析(ABA)に関する理解度と教師の心理的ストレス反応,教師効力感の関連について検討し,ASD理解度と教師効力感に有意な正の相関(ρ=.38,p<.01),ABA理解度と教師の心理的ストレス反応に有意な負の相関(ρ=-.28,p<.05)があることを明らかにした(酒井他,2012)。さらに,ASD及びABAについて適切な理解を持つ高校教師と,適切な理解を持たない高校教師に群分けし,それぞれのクラスに所属する自閉症スペクトラム障害の傾向をもつ学生の精神的健康状態について比較したところ,ABA理解度の高い教師のクラスに在籍するASD傾向の生徒の精神的健康状態が,ABA理解度の低い教師のクラスに在籍するASD傾向の生徒の精神的健康状態に比べ有意に良好であることを明らかにした(酒井他,2012)。これらのことから今後開発する心理教育プログラムの内容としてASDの障害特性に加えて,ABAに関する内容を含めることの有効性が示唆された。これらの結果に基づきプログラムを開発する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
所属研究機関の倫理申請に至るまでの手続きについて制約があり,予定していた調査研究は次年度に持ち越しとなったが,本研究で使用する尺度を再分析し,より有用な使用方法について検討することができたため,その結果について学会等で発表することができた。予定していた調査は今後実施する予定であるが,新たな知見が得られたことによって今後の研究の精度を高められたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで明らかにしてきた研究結果を論文にまとめると同時に,各変数の関連基づき2013年度は心理教育プログラムの開発を試み,実施する予定である。そのため高等学校教師が置かれている現状や教師が自閉症スペクトラムの傾向をもつ学生に対して現実的に用いることの可能な支援や配慮について,明らかにするため高等学校においてフィールドワークを実施してきた。しかし,現状では心理教育プログラムの内容構築に必要なデータが十分とは言えないため,2013年度も継続してフィールドワークを行い,より有用性の高い心理教育プログラムの開発に尽力する予定である。
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