2013 Fiscal Year Annual Research Report
陸面・雲微物理データ同化システムによるアジア域の降水予測可能性の向上
Project/Area Number |
12J08545
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
瀬戸 里枝 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 陸面データ同化 / 雲微物理データ同化 / 降水予測 / 衛星マイクロ波観測 / 関東域 / チベット高原 / 大気加熱 |
Research Abstract |
本課題は、陸面・雲微物理データ同化システムによって、アジア域での洪水予測や貯水池操作の最適化に有効な降水予測精度を実現することを目的としている。 平成25年度は計画通り、チベット高原を対象に開発・評価を行ってきた陸面・雲微物理データ同化システムを、都市域を含む関東域に適用し、降水予測精度の向上を達成した。同化変数やパラメタ設定の感度実験、放射伝達モデルなどの精度検証や、同化した雲を継続させるための調整に多くの時間を費やしたが、最終的には、同化変数を鉛直積算雲水量のみに設定し、同化された雲域で水蒸気量と潜熱解放に相当する加熱を行うことで最良の結果を得た。特定の豪雨イベント(平成20年度8月末豪雨)の再現に焦点を当て、豪雨を生じる雲の位置や範囲をより正確に再現し、局地的な大気場を整合的に変化させ、更に適切な位置に降水を生じさせることにも成功した。洪水予測に有効な降水予測には、豪雨が河川流域の中に生じるか否かという豪雨の「位置」の高精度な予測が不可欠である。本結果は、衛星マイクロ波のシグナルを利用して陸上の雲を同化することで、雲・降水の位置を高精度に予測可能であることを示した。アジア域の洪水・降水予測精度の向上には、豪雨の短期予測だけでなく、降水の傾向(多雨・少雨)の季節予測も重要である。アジアモンスーンの季節進行の決定要因の一つと指摘されているチベット高原上の気候(主に、高原による大気の加熱)について、陸面データ同化システムから得られる高精度な出力を用いた解析研究も行った。その結果、チベット高原上の大気加熱に対する、顕熱・潜熱とチペット高原外からの移流による加熱のそれぞれの寄与と鉛直構造が詳細に明らかになった。この結果は、これまで比較的海洋と大気の相互作用に偏った解釈がなされ、チベット高原の陸面の再現精度が低いモデルが用いてられてきた季節予測の手法に疑問を呈する事実を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、豪雨の短期予測の精度向上に集中した成果を挙げる予定であったが、平成25年度は短期予測の精度向上に加え、陸面と大気の結合データ同化システムという共通のツールを使って、洪水・降水の季節予測に繋がるメカニズム理解を進めることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
豪雨の短期予測については, 現段階では降水の時系列変化. 特に継続時間とピーク量の再現が不十分であるので、風などの大気場の同化による改善を試みる。本システムで採用している気象モデルWRFは観測データを同化する独自のパッケージを持つため, これを利用して大気場の同化を行う。 季節予測については、陸面のデータ同化システムを長期に適用し、アジアモンスーンの年々変動とチベット高原による加熱の寄与の関係を明らかにする。
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