2012 Fiscal Year Annual Research Report
揺らぎ入りの相対論的流体力学の構築とクォークグルーオンプラズマの輸送的性質の解明
Project/Area Number |
12J08554
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村瀬 功一 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 高エネルギー重イオン衝突 / 相対論的流体 / 流体力学的揺らぎ |
Research Abstract |
この研究では、特に相対論的流体力学の散逸に対応して発生する熱揺らぎである流体力学的揺らぎに注目し、高エネルギー重イオン衝突実験からクォーク・グルーオン・プラズマの性質を引き出す事を目的としている。平成24年度は、以下の点で進展があった。(1)相対論的流体力学では緩和時間の効果を考えないと因果律や安定性の面で問題が生じる事が分かっているが、緩和時間の効果を含む構成方程式を散逸流について陽な形で書くと、記憶関数と過去の熱力学的力の畳み込みで表される。これに対し揺動散逸関係を考えると、流体力学的揺らぎは有色雑音となり異なる時刻の間の相関が有限の値を持つ事が分かった。更に、系が平衡に近く揺らぎがガウス雑音である場合には、構成方程式の形が制限され一定の形の微分形を持つ事が分かった。その微分形に現れる流体力学的揺らぎの効果を現す項は常に白色雑音になるという事も分かった。他に、流体力学的揺らぎの効果が顕著に現れると考えられるケルビン・ヘルムホルツ不安定性に関連して、相対論的流体における角運動量保存の帰結としてのケルビンの循環定理を、有限密度・有限温度の場合に得た。(2)また、実験の測定量から流体力学的揺らぎの効果を通じてクォーク・グルーオン・プラズマの性質を取り出す為に、揺らぎが測定量に及ぼす影響について銅原子核・金原子核衝突の初期揺らぎを用いた解析を行い、実験の測定量v1の定性的な振る舞いが再現される事などが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
相対論的な系に於ける流体力学的揺らぎの性質に関しては、様々な考察を通して興味深い性質が当初考えていたよりも多く見付かって来た。一方で、流体力学的揺らぎの数値計算の枠組への実装は、事前の予想よりも考慮に入れなければならない点が多く数値計算のスキームを落ち着いて考える必要があるという事が分かって来たので、現在様々な面から考察を重ねている所である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)流体力学的揺らぎと対応する散逸を現在の流体力学的揺らぎの枠組に実装する予定である。その後にイベント毎の大規模な数値計算を実行し、散逸・流体力学的揺らぎの効果について定量的な計算を実行する。(2)流体力学的揺らぎについて分かった性質は、レター論文として投稿中であり追って詳しい論文を発表する予定である。更に、有限温度・有限密度における循環定理については更にネーターの定理の観点から考察を深める予定である。(3)より微視的な観点からの流体方程式の導出について議論し、流体力学的揺らぎに関する理解を深める予定である。
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Research Products
(9 results)