2013 Fiscal Year Annual Research Report
揺らぎ入りの相対論的流体力学の構築とクォークグルーオンプラズマの輸送的性質の解明
Project/Area Number |
12J08554
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村瀬 功一 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 高エネルギー重イオン衝突 / 相対論的流体 / 流体力学的揺らぎ / 因果律 |
Research Abstract |
本研究では、特に相対論的流体力学の散逸に対応して発生する熱揺らぎである流体力学的揺らぎに注目し、高エネルギー重イオン衝突実験からクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)の性質を引き出す事を目的としている。その為に、(1)流体力学的揺らぎについての理論的な解析、(2)流体力学的揺らぎを取り入れた数値計算、(3)揺らぎと実験の測定量の関係に分けて研究を実施する計画だが、今年度は以下の3つの点で進展があった。(1)相対論的流体力学に於ける流体力学的性質について更に解析を進め、流体力学的揺らぎが微分形の構成方程式で白色になるという結果が、Gauss雑音の仮定を用いずに証明できる事が分かった。また、多成分の散逸流の場合には自明ではない事も分かった。(2)重イオン衝突ではその流れの急激な膨張に合わせてτ-η座標という曲がった座標の上で計算を実行する。しかし、従来の計算方法では流体力学的揺らぎによるラピディティ方向の著しい勾配によって保存則の数値誤差が問題になる。そこで、保存則を厳密に満たす方法を幾何学的考察に基づき開発した。このスキームは、流体のジェットによる擾乱などその他の事象を記述する上でも非常に重要になる。更に、「保存カレント」を変数に取る方法と「局所静止系の基底で表示した散逸流」を変数として取る2つの新スキームを開発・実装し、両者の性質を比較した。局所静止系の散逸流による方法が性質の良い事が分かった。更に、流体力学的揺らぎの確率積分についての考察も行った。確率積分で一般的に議論される時間ステップΔt→0の極限を考えると、2次の相対論的散逸流体の特別な構造から、流体力学的揺らぎの確率積分は加法的になり伊藤積分・Stratonovich積分の結果の違いは生まれない事が分かった。更に、流体力学的揺らぎを取り入れた計算から、その効果が大きく構成方程式を適用できる長さスケールが重イオン衝突で比較的大きい事も判明した。これは、重イオン衝突における流体力学が適用できる限界を定量的に示す上で、一つの指針となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の主要な目的であった、流体力学的揺らぎが高エネルギー重イオン衝突実験の測定量に対しどの様な効果を与え、そして、そこからどの様にQGPの情報を引き出すかについては順調に進んでいる。一方で、流体力学的揺らぎの性質について微視的な観点から迫るという事については余り進んでいないが、代わりに当初の期待を越えて、相対論的な系の一般的な性質である因果律などから流体力学的揺らぎが著しい性質を持つ事を示せたので、総合して②と評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
(a)現在、流体力学的揺らぎを取り入れた相対論的散逸流体の計算結果を実験の測定量に結びつける為に、流速・温度場から粒子に変換する部分を進めている。変換式に散逸流の効果を取り入れる方法について複数の方法を考慮に入れ、より良い物を選択・開発する。更に、大規模な数値計算を行って流体力学的揺らぎが実験の測定量にどの様に影響を与えるかについて調べる予定である。(b)2次粘性流体では揺らぎはΔt→0で加法的だったが、緩和時間τ_R=0とすると揺らぎは加法的でなくなる。有限の時間ステップΔtと、緩和時間τの大きさの関係について考察し、両者が有限の場合に数値計算でどの様に取り扱うのが最適化を調べ、これを実装する。(c)また、流体力学的揺らぎが微分形の構成方程式で白色になる事について、散逸流が複数成分を持つ場合の証明について現在問題に直面しているが、それを解決する。(d)また、散逸流の記憶関数のテンソル構造についての論文・数値計算スキームについての論文についてとめ発表する。
|
Research Products
(3 results)