2012 Fiscal Year Annual Research Report
タイにおける仏教僧ネットワークにみるコミュニティの編成過程に関する人類学的研究
Project/Area Number |
12J08584
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
岡部 真由美 国立民族学博物館, 特別研究員(PD)
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Keywords | タイ / 仏教僧 / ネットワーク / コミュニティ / 開発 / カリスマ |
Research Abstract |
本研究の目的は、タイにおける仏教僧ネットワークを対象に、近代化・グローバル化が進行する現代世界におけるコミュニティの動的な編成過程を解明することである。より具体的には、1960年代以降のタイ社会における開発の進展のなかで、仏教僧が、国家・サンガ・地域コミュニティという既存の脈絡を越えて形成するネットワークに着目し、彼らが外部の諸勢力、制度や集団と接合しながら、価値や倫理を共有し、新たに創出する共同性を民族誌的アプローチから明らかにするものである。 初年度にあたる本年度は、まず、仏教僧ネットワークにかんする基礎的資料収集のため、2度の現地調査を実施し、北タイ・チェンマイ県を拠点に、バンコクおよび東北タイ(3県)にて、僧侶やNGO関係者らへの聞き取りを行った。その結果、(1)「北タイ・コミュニティ開発僧ネットワーク」は、特定の師弟関係に依拠しない僧侶から構成され、その活動を通じて理想の僧侶像を共有する点に際立った特徴を有すること、(2)個々の成員は、ネットワークへの参加によって、地域開発にまつわるさまざまな知識を獲得するとともに、それらと、地域コミュニティ内部の伝統的知識や技術、地縁・血縁関係、さらには地域を越えて広がる在家者のネットワーク等とを独自につなぎ合わせることで、「開発」活動を実現していること、が明らかとなった。 また、調査結果の分析と、上座部仏教とコミュニティに関する人類学の先行研究の検討とを行い、仏教僧ネットワークという新たなコミュニティを理解するために、今後は、コミュニティ内部における知識の伝達、コミュニティへの参加をとおしたカリスマ性の追求という僧侶個人の実践、さらには僧侶が属する他の複数のコミュニティ(サンガや地域コミュニティ)の重層性を把握することが必要であると分かった。 なお、これらの研究成果の一部は、論文2本と口頭発表2本のなかで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、北タイのコミュニティ開発僧ネットワークについて、その歴史的形成過程の解明にかんする基礎的資料の収集という目標について、現地研究者と連携をとりながら綿密な調査データをしっかりと集めることができたばかりか、個々のメンバー僧侶の活動についても僧侶と信奉者との関係の実態把握については期待以上の成果を収めることができた。また、国際タイ学会で発表した原稿に加筆修正し、タイや欧米の研究者とともに国際的に流通する英文の論集として共同刊行したことや、3月に参加したチェンマイ大学での国際ワークショップに発表参加することで、最新の研究成果から新たな知見を得ることができた。これらの成果は、次年度以降の現地調査ならびに理論的研究に貢献しうるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の現地調査ならびに文献研究の成果をふまえ、来年度は当初の計画どおり、北タイにおける仏教僧ネットワークという新たなコミュニティ内部で形成されつつある共同性に注目して、そうした共同性を支える価値や倫理の具体的な内容を明らかにすることを課題とする。その際、僧侶個人が、新たな僧侶コミュニティへの参加をとおして、いかに他の成員たちとのあいだで価値や倫理を共有しながら共同性を生み出しているのかに焦点をあてながら、本年度の調査対象となった僧侶のうち、北タイ・チェンマイ県内の一僧侶の個別事例についてのインテンシヴな現地調査(2013年10月および2014年2月)を実施する。
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Research Products
(5 results)