2013 Fiscal Year Annual Research Report
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12J08665
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 草大 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 変体漢文 / 平安時代語 / 古記録 / 古文書 |
Research Abstract |
当年度は、平安時代の和文・漢文訓読文との関係から、変体漢文の特徴・性格を解明することを主たるテーマとした。前年度までの研究により、「文体間共通語」(和文と漢文訓読文との双方で用いられるが、その語義・用法に両者で相違のある語)の調査からは、変体漢文の言語は漢文訓読文よりも和文と共通する部分が大きいことが示された。当年度はこの「変体漢文における和文性」の内実について論究を深めた。源氏物語などの和文は、日常語的要素と雅語的要素の両面を併せ持つが、変体漢文における和文的要素は、後者の要素を排したものであることを、追加例の検討により示した。則ち、文体間共通語の用法調査からは、変体漢文の日常語性が明らかになると主張した。このことを日本語学会2013年度春季大会において発表し、その内容を基にして論文を『国語と国文学』91-1に投稿した。 また、文体間共通語の調査から以上のような様相が見えてくる理由を、変体漢文の生成過程に関連づけて次のように考察した。則ち変体漢文は単なる訓読語と和文語との混成ではなく、書き手の心理にある話し言葉(≒和文)がまず基礎としてあり、それを漢字専用文である変体漢文へと現実化させていく過程で、必要部分を漢文訓読語へ置換させていったのであると考えれば、これまでの調査と矛盾しないのである。このことを第109回訓点語学会研究発表会にて発表した。 以上は、変体漢文の性格を実証的態度で考究したものとして、重要な成果を挙げていると考える。こうした総体を捉えようとする研究に加え、個別的な調査・研究も行なった。漢字専用文である変体漢文においては訓法が確定できない字句が少なからず存するが、そうした一例である助動詞用法の「欲」を取り上げ、先行研究を概観した上で、訓点資料の用例を多く集めて「~ムトオモフ」と「~ムトス」との訓じ分けの傾向を明らかにし、『日本語学論集』10に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「研究の目的」欄に記載した、「他文体(和文体、漢文訓読体等)と比較して変体漢文の語彙がどのような性格を有するか」の究明について、一定の成果を挙げたため。
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Strategy for Future Research Activity |
当年度に引き続き、平安時代を中心に変体漢文の言語的性格の解明を図る。特に、これまでの研究成果を援用して、平安時代の変体漢文資料それぞれの言語的性格の相違などを究明することに力を注ぐ。
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Research Products
(5 results)