Research Abstract |
本研究は高齢社会における高齢者の身体機能の回復を目的に, 日常動作の基本となる起立動作に着目し, 起立動作の生成メカニズムを解明し, 臨床の場で活用されるトレーニング手法を提案することが目的である. 従来の研究では人の起立動作の訓練は同じ環境で行われており, それでは必ずしも複雑な外部環境(椅子の高さ, 足の位置, 動作の速度など)に適応することができない. そのため本研究では, 人の適応的行動生成メカニズムを解明することで、異なる環境にも適応できる運動機能の獲得手法の確立を目指す. 本年度では, 人の起立動作時の身体運動を調査するために, 光学式モーションキャプチャを使用した身体軌道計測, 床反力計を用いた臀部と足部からの反力の計測, ポータブル筋電計による表面筋電位の計測を行うことができるシステムの構築を行った. これにより人の動作時の身体運動の測定が可能となり, 人の動作時の軌道・力・発揮筋力を調べることができる. 本年度では, 人がいかに外部環境や自身の目的に合わせて動作を適応的に生成しているかを調査するために, 構築された装置を使用して, 健常な3名の被験者から起立動作時のデータを取得した. 椅子の高さを下腿の長さに合わせて正規化し(50%と100%), 動作の速度はメトロノームのテンポ(20/40/80BPM)に合わせて運動を行ってもらった. 身体軌道の測定には26ヶ所に反射マーカーを使用し, 筋肉は下肢の6筋肉(大腿直筋, 外側広筋, 内側広筋, 大腿二頭筋, 前脛骨筋, 腓腹筋)を測定した. 本実験から得られた結果として, 起立動作を行う際には, 外部条件や動作の速度に依らず, 3つの不変的な筋肉の協調発揮が見られることが分かった. ただし, 異なる速度の動作を生成するためには, それぞれの筋肉の協調発揮の発火頻度の継続時間を変更することで適応していることが解明された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では, 新規に購入した装置を使用した新しい計測システムを構築することができ, これにより動作時の複数データの同時取得が可能となった. 本年度では, それらの装置を使用した計測実験から, 共通する筋協調の構造を解明することができた. これらの成果から, 本研究は順調に進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で対象とする起律動作の解明のために, 本年度では健常若年者を対象とした計測実験を行ってきた. しかしながら, 高齢者の身体機能の改善を目標とする以上, 健常若年者だけではなく, 高齢者の起立時のデータが必要不可欠である. そのため, 来年度では共同研究者である東京大学医学部付属病院の岡敬之氏との連携を強め, 高齢者や疾患を有している方でのデータの取得をし, 若年者との差分を調べることで, 身体機能改善の方法を調査する.
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