2012 Fiscal Year Annual Research Report
12世紀の正教会・アルメニア教会合同計画とアルメニア教会におけるキリスト論の発展
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12J08789
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
濱田 華練 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | アルメニア教会 / キリスト教神学 / ビザンツ帝国 / アルメニア / 東方キリスト教 |
Research Abstract |
本年度は主としてモスクワ及びヴェネチアの文書館において収集した古典アルメニア語文献の解読に取り組んだ。特に、研究テーマである12世紀の正教会・アルメニア教会と合同計画の最重要史料でありアルメニア教会神学の代表的著作でもあるネルセス・シュノルハリ(アルメニア教会総主教・神学者、在位1166-1173年)の書簡の研究を進めた。また、7世紀に成立しアルメニア教会における反カルケドン的神学を形成する上で重要な役割を果たした神学書『信仰の印(knik' hawatoy)』のテキストを入手できたことは、アルメニア教会の神学におけるネルセス・シュノルハリの位置づけを考える上で非常に大きな進展であった。これらの古典アルメニア語テキストを検討する上で明らかになったのは、キリストの肉体はその死から復活までの間に腐ることがなかった(あるいは腐り得なかった)という「キリストの肉体の非腐敗性」への信仰が中世のアルメニア教会におけるキリスト論の根幹をなしているということである。従来、アルメニア教会と正教会やカトリックなど他の主流派教会の違いを論じる上で、「キリストにおける二つ/一つの本性」というカルケドン信条にまつわる部分だけが注目されてきたが、「キリストの肉体の非腐敗性」については、アタナシオスなどの教父が言及しているものの、正教会やカトリックなどの主流派教会では教義化されずに残った問題であり、アルメニア教会と同じ非カルケドン派のシリア教会においてはアンティオキアのセウェロスによって否定されている。それゆえ、アルメニア教会の神学において「キリストの肉体の非腐敗性」への信仰が根強く存在することは、他のキリスト教諸宗派と比べても非常に特徴的である。今後はこの「キリストの肉体の非腐敗性」の問題が、ネルセス・シュノルハリが主導したアルメニア教会と正教会との合同計画にまつわる議論にどのように影響しているかを詳細に検討していくことが課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では平成24年度中に博士論文のリサーチ・コロキアムを行う予定であったが、古典アルメニア語文献の調査により予想外の発見があり、それを従来の研究に組み込んだために研究成果をまとめるのが遅れたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き古典アルメニア語文献を精読・分析するとともに、平成24年中にはあまり着手できなかった先行研究分析を行うことを目指す。ネルセス・シュノルハリの神学思想にかんする先行研究はそれほど数多くはないが、ヴェネチアを中心とするアルメニア・カトリックにおいて彼の神学に焦点を当てた研究が存在することが新たに明らかになったため、それらの資料の収集・分析を行っていく。また、可能な範囲においてネルセス・シュノルハリの神学論において特に争点となる「キリストの受肉と神性・人性の合一」「キリストの肉体の非腐敗性」等の神学上の諸問題について、アタナシオス、ニュッサのグレゴリオス、アレクサンドリアのキュリロス、アンティオキアのセウェロスなどギリシア・シリア教父の議論との比較・検討も行う。
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Research Products
(3 results)