2012 Fiscal Year Annual Research Report
酵素-高分子電解質複合体を利用する腫瘍信号のパターン認識系構築とがん診断への応用
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12J08921
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
冨田 峻介 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 酵素 / 高分子電解質 / バイオセンシング / 線形判別分析 / 血漿タンパク質 / パターン認識 |
Research Abstract |
血液などの生体液組成は、早期がん診断において重要な分析対象の一つである。本課題では、抗体の"特異的"な相互作用を利用する従来法とは全く異なるアプローチによって生体液組成を分析できる、新しいがん診断法を開発することを目的とした。本年度はその第一歩目として、酵素-高分子電解質複合体(EPC)ライブラリと線形判別分析法を利用することで、簡易且つ高精度に血漿タンパク質溶液組成を判別できるセンサーアレイを開発することに成功した。この手法では、EPCと分析タンパク質間の"非特異的"な相互作用を利用することで得られる「タンパク質溶液の性質を反映した固有の酵素活性パターン」を統計的に解析することで分析タンパク質を同定する。 アニオン性の3種類の酵素(Aspergillus oryzae由来およびEscherichia coli由来β-ガラクトシダーゼとAspergiillus oryzae由来α-アミラーゼ)とカチオン性のポリメタクリル酸ジメチルアミノエチルとポリエチレングリコールのブロック共重合体をそれぞれ混合すると、EPC形成とともに酵素活性が減少した。EPCに、分析物である7種類の100nM血漿タンパク質溶液を加えると、各分析物に固有の酵素活性回復量のパターンが得られた。線形判別分析によってこれらのパターンの解析を行ったところ、対応する血漿タンパク質溶液に分析物が98%の精度で判別できることが明らかとなった。 本研究で開発されたEPCライブラリを利用するセンサーアレイは、分光器を用いて酵素の活性を測定するだけで簡易に血漿タンパク質溶液組成を判別できる。加えて、抗体を用いるアプローチのように分析物に含まれる特定のタンパク質を検出するのではなく、分析物全体の性質を基にして対象を同定するため、本手法は診断に用いる複雑な組成の生体液の状態判別にも適用できるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、アニオン性酵素ノカチオン性高分子電解質複合体のライブラリを構築し、それを用いることで血漿タンパク質の高感度かつ高精度な検出が可能なセンサーアレイを開発することに成功した。この成果を分析化学や生体材料学分野の国内・国際会議で積極的に発表し、既に原著論文としてまとめて学術雑誌に投稿している。これらの研究内容は翌年度の研究計画に及ぶものであることから、本年度は期待以上の進展があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度に開発した血漿タンパク質の溶液組成を判別できる酵素/PEG化高分子電解質複合体センサーアレイをベースに、がん診断への応用を見据えた研究に取り組む。そのために、(1)細胞懸濁液、(2)細胞破砕液、(3)マウスから採取した細胞や血清といった現実に即したサンプルに応用していく予定である。翌年度は、高分子合成の立場から酵素/PEG化高分子電解質ライブラリの更なる改善を行ったうえで、まずはヒト正常細胞やヒトがん細胞の懸濁液および破砕液を生検のモデルサンプルとして、センサーアレイによって判別可能かどうかを検討していく。
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Research Products
(7 results)