Research Abstract |
人間は,自分の身に将来起こると思われる出来事について自己を投影し,その出来事を今まさに体験しているかのようにイメージすることができる。このような能力は,エピソード的未来思考(以下,未来思考)と呼ばれる。未来の出来事についてのイメージを構築する際には,過去のエピソード記憶に蓄えられた詳細情報を検索し,検索した情報を柔軟に統合するというシステムが想定されている。近年,未来思考において中央実行系が情報を統合する際に重要な役割を担っている可能性が指摘されている。 しかし,未来思考におけるその役割は未確認であった。そこで,二重課題により中央実行系の働きを阻害し,詳細情報の統合を妨害することで,構築される未来のイメージの詳細さの低下がみられるのかを検討した。私の本年度の計画は,未来のイメージの詳細さが低下する原因を探ることであった。この研究は,用いた課題は計画と異なるものの,同じ目的に沿ったものである。 実験は具体的には以下のように実施された。未来思考時に負荷を与える第二課題として,中央実行系のみに負荷をかけることができるキー押し課題が用いられた。実験の結果,未来の出来事をイメージすることで,その詳細さに関わらず近い過去概念が活性化しており,どちらの群の参加者も過去の詳細情報にアクセス出来ていたことを反映していた。また,未来方向の単語については,負荷の小さかった場合は近い距離を表す単語への反応が速く,近い距離概念が活性化していたが,負荷の大きかった場合は未来方向の遠近で差がなく,特定の距離概の念活性化は見られなかった。これは,中央実行系への負荷の増加により,検索は出来ていても,詳細なイメージ構築が出来なくなっていたことを示していた。これらの結果から,詳細な未来のイメージを構築するためには,情報を統合する際の中央実行系の働きが重要であることが明らかになった。これは,これまで想定されていながら,実証はされていなかった未来思考における中央実行系の役割と統合プロセスの重要性を確認したものであり,理論的意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画時点では,イメージとして統合すべき情報間の意味的な関連性を操作することで統合の困難な状況でイメージの詳細さが低下することを示し,統合というプロセスの重要性を間接的に検証しようとしていた。本年度実施した実験は,情報を統合する能力自体を低下させる操作を行うことで,直接的にその重要性を検証できた。したがって,計画時点よりも適切な方法で目的を達成したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
情報を統合する処理が困難となる状況(統合すべき情報間の関連性が弱い/情報が多い}における未来思考について検証し,どのような状況で人は未来の出来事を詳細に考えられなくなるのかを明らかにする。情報の関連性の操作は平成24年度時点で行うはずのものであったが,上述の理由から実施されていない。しかし,イメージの詳細さの低下には,中央実行系の働きの低下による統合処理能力の低下に起因するものと,処理すべき情報に起因するものがあると考えられる。前者は平成24年度に検証されたが,後者は未だ明らかではない。そのため,本年度は後者について検証する。
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