Research Abstract |
最終年度は主に下記の二つの研究を行った. (1)既存の連想記憶モデルでは, 記憶容量を超過してパターンを学習させると, ネットワークはオーバーロードを引き起こし, それまで学習したどのパターンも想起できなくなる. これまでにオーバーロードを回避するモデルとして, 指数的忘却モデルや0次減衰モデルといったシナプス減衰モデルが提案されてきた. 我々は, より一般的なシナプスの減衰を取り扱うために0次減衰モデルを拡張し, β次減衰シナプスをもつ連想記憶モデルを提案した. ここで減衰次数β=1のときは指数的忘却モデルに相当する. シミュレーションにより, ネットワークの記憶容量を最大化する最適なシナプス減衰次数をもつモデルを探索した. 減衰次数が整数の場合, 指数的忘却モデルが最適であり, 0次減衰モデルは準最適であることがわかった. また, 減衰次数が大きくなるにつれて, ネットワークの記憶特性がほぼ一定になることがわかった. (2)近年, 記憶を記銘するためのシナプス可塑性則と想起のための神経相互作用則の最適な組合せを探索する試みがある. Lengyelら(2005)は, スパイクタイミング依存可塑性(spike-timing-dependent plasticity. STDP)に着目した場合, その記憶想起には位相応答曲線(phaseresponse curve, PRC)で記述された神経相互作用を用いることが適切であると仮定し, ベイズ理論の枠組みから最適なSTDPとPRCの関係を導いた. 我々は, 神経細胞の高次元非線形動力学系の位相縮約モデルを求め, このモデルの物理的な制約の下で最適な記銘と想起を実現するSTDPとPRCの組合せを導出し, Lengyelらとの対応を明らかにした. また, 最近の研究から, 海馬ではスパイク時空間パターンの記銘とその時間反転パターンや引き延しパターンの想起が行われていることが示唆されている. そこで, 本手法をこれらの記憶想起の場合に適用し, 最適なSTDPとPRCの組合せを探索した.
|