2012 Fiscal Year Annual Research Report
イランにおける「近代」の受容と反発-テヘラン現代美術館の変遷が映し出すもの-
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12J09496
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
寺田 悠紀 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | テヘラン現代美術館 / ミュージアム / イラン革命 / ギャラリー / 展示 / コレクション / 近代 / 美術 |
Research Abstract |
テヘラン現代美術館の設立(1977)と変遷を事例として調査する本研究は、一般的に近代の概念・施設と言われる「ミュージアム」(美術館)を通して、イランにおいて「近代」が如何に受容または反発されてきたのかを理解することを目的としている。また、本研究は「美」という概念には社会的な要因に影響を受けながら構築された側面があることを指摘する試みでもある。実地調査では研究計画に従い、複数の美術館関係者(イラン革命後に初めて革命前に収集された西洋のコレクションを展示し注目をあつめた元ディレクターや美術館設立当時から所蔵庫で勤務を続けた方など)に対してインタビューを行った。 テヘラン現代美術館の図書館ではビエンナーレのカタログや、美術館についての先行研究など、ペルシア語の貴重な資料に目を通すことが出来た。現在の状況については、私営のアートギャラリーに頻繁に出入りし、アート関係者からの聞き取り調査を通して、私営のギャラリーと国営の美術館の制約の違いや、近年の展示の傾向などについての情報を得た。近代化が進められたと言われるパフラヴィー朝下のイランで建設された「ミュージアム」は、国営化された後も一層ナショナリズムの概念と関わりながら美の系譜を示していた。一方でそれが社会の動向を反映しているとは限らないという事実も見られ、国営と私営の文化施設の比較を通して、権力や支配の力が働く「ミュージアム」という公共の展示空間における「美」の管理、という視点が得られたことは重要であった。 また、実地調査をした時期にはテヘラン現代美術館において所蔵作品から厳選された20世紀のアメリカの美術作品を展示した「Pop Art Op Art展」が開催されており、西洋の美術作品が現在どのように扱われ、受け入れられているのかを実際に確認する良い機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地に赴き、テヘラン現代美術館の関係者にインタビューが行えたことは、本研究において最も重要と思われる美術館の変遷について知る上で貴重な機会となった。テヘラン現代美術館に通い実際の展示内容を確認できた他、私営の文化施設で行われる美術の講義への参加やイランで活躍する現代美術家たちとの交流を通して多くの知見が得られた。また、今年度はセミナーや他大学との交流会にも積極的に参加し、発表や有意義な議論を交わすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題は先ず、今年度取集することが出来なかった雑誌等のアーカイブの収集と、ペルシア語の資料を精読し用語の使い方等についての分析をすることである。イランにおける「ミュージアム」の形成を更に深く理解するため、美術館だけでなく他多数の博物館の展示内容にも注目したい。また、口頭発表の内容を論文にまとめることを来年度の目標としている。研究計画には、中東周辺諸国の現代美術館との比較を予定していたが、「中東」という枠組みで比較することの妥当性については再考したいと考えている。イランの現代美術を理解するには、ドバイ等の市場の動向も注視しなければならないが、世界的動向を視野にいれた考察を行う予定である。
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Research Products
(8 results)