2012 Fiscal Year Annual Research Report
古代中国における伝統の創造について-六朝隋唐を中心としてみた-
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12J09550
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
戸川 貴行 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中原恢復 / 帝権強化 / 華林園 / 詔獄 / 親衛軍 |
Research Abstract |
本研究は四世紀のユーラシア全土にわたる騎馬遊牧民の活動によって、心ならずも故郷である中原から江南に避難した漢族(以下、僑民という)の亡命政権である東晋およびそれを受けた南朝における僑民の土着化、それにともなう国家構造の変容、伝統文化の再構築について、都城研究に関する考古学的成果を踏まえつつ明らかにせんとするものである。 研究代表者はこれまで東晋における中原を中心とした国家構造、伝統文化が徐々に喪失・忘却されていった結果、つづく南朝において江南特有の新たな国家構造、中国的伝統が成立し、隋唐ひいては我が国にも影響を与えたことなどを論じてきた。 平成24年度はそうした意識の変化が具体的に表れる場として江南政権の都である建康をとりあげ、とくにその御苑にあたる華林園について帝権強化との関連から考察を行った。文献のみでなく近年の考古資料をも踏まえた検討の結果、華林園について、皇帝による勅命刑獄「詔獄」が親衛軍を背景に大臣をはじめとする士人層を対象として実施される場であったことをつきとめ、さらにこうした制度が北魏、北斉に見られることを指摘した。華林園については、すでに遊宴を中心とする文化的側面、陰陽による都城配置といった点からの言及がなされているが、平成24年度はそれを帝権強化との関連から新たな研究水準へと昇華した。 皇帝がその権力の安定、拡大を目指すことは中国史上、どのような時代においても見られる現象である。しかし、中原恢復に代わる新たな国家の結集点を模索していた江南政権では、とりわけその安定、拡大が求められていた。こうしたことは、華林園の「詔獄」が単なる大臣の訊問・誅殺にとどまらず、中原恢復に代わる国家の結集点を帝権強化に求める改革であったことを物語っている。上記の建康の特質は、我が国にも影響を与えた隋唐における都城と帝権の実態如何といった問題を追究する上でも重要であるということができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、四世紀のユーラシア全土にわたる騎馬遊牧民の活動により中原から江南に避難した僑民の亡命政権である東晋およびそれを受けた南朝における僑民の土着化、それにともなう国家構造の変容、伝統文化の再構築について、都城研究に関する考古学的成果を踏まえつつ明らかにせんとするものである。
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Strategy for Future Research Activity |
こうした目的を達成するべく、平成24年度は江南政権の都である建康について文献のみでなく考古資料をも踏まえ、華林園における「詔獄」および親衛軍との関連から論じ、そこに帝権強化を基盤とする新たな国家構造への展開が存在したことを明らかにすることができた。 今後は帝権強化にむけた国家構造の変容のみでなく、それと緊密に関わる伝統文化の再構築について検討を進めていく。すなわち、後漢から西晋まで中国王朝の都が置かれていたのは河南の洛陽であり、それだけに西晋においては洛陽を天下の中心とする経書、史書が存在していた。それが西晋の後をうけた東晋南朝において、どのようにして江南の建康を天下の中心とする考えへと変容していったのかについて文献史料、考古資料による成果を踏まえつつ、その地でおこなわれた国家儀礼およびそうした場で演奏された雅楽との関連如何といった見地から検討していく。
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Research Products
(3 results)