2013 Fiscal Year Annual Research Report
古代中国における伝統の創造について-六朝隋唐を中心としてみた-
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12J09550
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
戸川 貴行 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 雅楽 / 宗廟儀礼 / 南郊儀礼 / 「人」 / 「天」 |
Research Abstract |
本研究は四世紀のユーラシア全土にわたる騎馬遊牧民の活動によって、心ならずも故郷である中原から江南に避難した漢族(以下、僑民という)の亡命政権である東晋およびそれを受けた南朝における僑民の土着化、それにともなう国家構造の変容、伝統文化の再構築について明らかにせんとするものである。研究代表者はこれまで東晋における中原を中心とした国家構造、伝統文化が徐々に喪失・忘却されていった結果、つづく南朝において江南特有の新たな国家構造、中国的伝統が成立し、階唐ひいては我が国にも影響を与えたことなどを論じてきた。 平成25年度はそうした意識の変化が具体的に表れる題材として江南政権の儀礼音楽である雅楽をとりあげ、祖先をまつる宗廟儀礼と天をまつる南郊儀礼の結びつきについて考察を行った。西晋末の混乱をうけ、東晋において両儀礼で演奏される雅楽は有名無実に近い状態にあった。その後、劉宋孝武帝は江南の亡命政権を中国の新たな正統王朝に再生させるべく、国家儀礼の改革を断行する。とくに雅楽については、漢、曹魏、西晋の伝統に反し、宗廟・南郊という異なる儀礼の間で同じ楽曲を演奏する改革をおこなった。つづく梁武帝はそうした改革を展開し、新たに十二雅とよばれる周にならった楽曲編成をつくった。 上は宗廟と南郊の関連づけによって「人」、「天」の結びつきを強化し、天命を受けた現王朝における皇統の正統性をよりつよく主張するものであった。この結びつきは天神と皇統が一体となっている我が国と比較した際、両者を分離しつつ正統性を主張せんとした中国王権の歴史的特質であったと評価することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は僑民の土着化にともなう国家構造の変容、伝統文化の再構築について、従来まったくと言っていいほど研究のなかった南朝雅楽の形成過程と政治改革の関係を詳細に究明でき、それが隋唐雅楽および日本雅楽へと展開していく重要な基盤を提供できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は帝権強化にむけた国家構造の変容のみでなく、それと緊密に関わる伝統文化の再構築についてさらなる検討を進めていく。すなわち、東晋南朝で形成された雅楽を中心とする伝統文化がのちに中国を再統一する階唐、ひいては我が国にどのような影響を及ぼしたのかという点である。唐の儀礼書として著名であり、我が国にも伝わった『大唐開元礼』については、これまで雅楽を切り口とする研究が皆無である。しかし、代表者のみるところ、各儀礼は雅楽による分類がなされており、そうした分類は我が国の儀礼体型にも影響を与えていることを示す史料がある。今後はそうした見地から南朝雅楽の階唐、日本への展開如何といった問題を検討していく。
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Research Products
(2 results)