2012 Fiscal Year Annual Research Report
四座ホスフィンを用いた低原子価遷移金属クラスターの精密合成と機能材料への応用
Project/Area Number |
12J09653
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
中前 佳那子 奈良女子大学, 大学院・人間文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多座ホスフィン / 遷移金属錯体 / クラスター / 低原子価 / パラジウム / 銅ヒドリド |
Research Abstract |
本研究では当研究室で合成法を確立した四座ホスフィン(dpmppm=Ph_2PCH_2P(Ph)CH_2P(Ph)CH_2PPh_2)で構造規制した遷移金属クラスターを合成し,その錯体の特異な反応性と物性について評価を行っている.まず,一つ目のテーマである「直鎖状パラジウム八核錯体」の研究では,電気化学測定からPd_8核錯体が酸化還元活性であることが示され,コバルトセンによる試薬還元を検討したところ2電子還元体が生成していると推定される結果が得られた.この還元体はCH_2Cl_2と反応して塩化物イオンが軸配位したPd_8核錯体へと変換することもわかり,新たな電子状態に基づきCH_2Cl_2の炭素―塩素結合を還元的に切断した結果であると考えている.金属鎖の還元によって主に中央部のPd原子上の電子密度が高くなることがDFT計算か推定され,その電子の移動によって鎖末端が反応場となっているものと考えられる.今後この詳細なメカニズムを解明し,より特異性の高い反応に応用したい.また,Pd_8核錯体に対してプロトンとの反応を検討したところヒドリド錯体へと変換することがわかった.この結果から,電気化学的還元操作を組み込むことで水素発生サイクルを構築できるものと考えられ,新たな目的に設定して研究を進めている.以上に関して研究を発展させるとともに当初の目的に定めた骨格拡張の検討を続ける予定である. 二つ目のテーマである「銅(I)ヒドリド錯体」では,新たに銅2核および4核ヒドリド錯体を合成し,これら錯体は二酸化炭素を還元してギ酸イオンが配位した銅錯体に変換することがわかった.これは既に合成した銅9核および16核ヒドリドクラスターには見られない反応性であり,今後は銅ヒドリド錯体を用いた二酸化炭素からギ酸への触媒的還元反応へと展開したいと考えている.さらに,銅9核,銅16核ヒドリドクラスターに関しては,それらクラスターの形成中間体と考えられる銅6核ヒドリドクラスターの構造解析に成功し,dpmppmを用いた銅多核ヒドリドクラスターの構築プロセスを詳細に解明するとともに,クラスターへの小分子の取り込み等の検討を続ける予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「直鎖状Pd_8核錯体」の研究では,さらなる骨格拡張に対する端緒を見いだせていないものの,Pd_8核錯体が酸化還元活性であることを利用した特異な反応性の探索と水素発生サイクルの構築を新たな目的として設定した.さらに,「銅(I)ヒドリド錯体」に関してもCu_2核およびCu_4核ヒドリド錯体を利用した二酸化炭素を用いたギ酸への触媒的還元反応の達成を目指し,広く研究を展開することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
直鎖状Pd_8核錯体のさらなる骨格拡張の戦略として鎖末端のPd(I)を還元することで2分子間のカップリングをねらっているが,現在までに得られた知見では,アセトニトリルが配位したPd8核錯体を2電子還元するとP(語核骨格を保持したまま金属鎖の中央部に位置するPd原子上の電子密度がより高くなることがDFT計算からわかった.この結果から,末端のパラジウムを還元するにはより強い還元が必要であると考えられることから反応させる還元剤を検討する予定である.さらに,金属鎖を伸長させる別の戦略として掲げた架橋有機配位子の拡張に関しては五座および六座ボスフィンの合成法の確立を進める予定である.
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Research Products
(3 results)