2012 Fiscal Year Annual Research Report
強相関マンガン酸化物における電子相転移の原子スケール学理の構築
Project/Area Number |
12J09797
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
清水 亮太 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 特別研究員(PD)
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Keywords | 強相関マンガン系酸化物 / 走査トンネル顕微鏡・分光 / 酸化物薄膜 / 超巨大磁気抵抗 / 電荷軌道秩序 |
Research Abstract |
本研究の当該材料たるマンガン酸化物の物性発現を理解する上で,最も標準的な試料となるLa_<0.7>Ca_<0.3>MnO_3(以下,LCMO)及びLa0.7Sr_<0.3>MnO_3(以下,LSMO)の薄膜作製条件の最適化及び走査トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)における原子スケールでの構造観察,電子状態評価を行った. LCMO薄膜においては,SrTiO_3基板表面に予め存在する過剰なTi原子の存在とLCMO薄膜のエピタキシャル成長過程との関連を探るべく,表面原子構造の膜厚依存性を調べた.すると,膜厚が増加するとともに過剰なTiが薄膜内部に取り込まれていき,過剰カチオンによって形成された表面層が徐々に消失していく様子を原子スケールで明らかにすることに成功した.これは極薄膜(膜厚く4nm)において報告されている金属-絶縁体転移とも密接に関係し,低次元性による量子効果だけではなく結晶性や不定比性をきちんと議論しなければならないことを強く警告する結果であり,本研究の原子スケール観察により初めて明らかにされたものである.本成果について現在論文執筆中である. しかしながら,LCMO薄膜においては薄膜作製直後(As-grown)の状態において,強磁性金属相の発現を確認することができなかった.これは,薄膜内における酸素の取り込み量が少ないため,酸素欠損がキャリアを補償したためと考えられる.そのため,より転移温度が高く,金属化が容易なLSMOに変更し,成膜条件をより酸化雰囲気に変更したところ,低温における強磁性相を確認し,原子構造と走査トンネル分光によるFermi準位上の状態密度の観察に成功した.今後は,この強磁性金属相LSMO上での極低温強磁場分光により,その電子状態の原子スケール観察を行い,標準試料としての基礎物理を探索し,電荷秩序強磁性金属相転移を起こす試料への発展につなげる予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マンガン酸化物の表面原子配列の観察には既に成功しており,残る課題は金属状態の実現である.酸素雰囲気の調整により,原子レベル秩序を有した金属状態の試料の作製は可能であり,目的のトンネル分光までの見通しは明るい.
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Strategy for Future Research Activity |
まず最も単純な強磁性金属相であるLa_<0.7>Sr_<0.3>MnO_3薄膜の作製・評価を行っている.現状では,酸素不定比性による絶縁体状態であるが,今後酸素量を制御することで金属化が実現できると思われる.問題は,表面清浄性と酸素量制御の両立をいかに達成するかであり,成膜後の酸素雰囲気加熱・真空加熱等の後処理の組合せを検討しなければならない.これを克服すれば,プロセス等が類似している他の組成のマンガン酸化物へと展開が可能となる.とりわけ今回対象としている強磁場誘起金属-絶縁体相転移のNd_<0.7>Sr_<0.5>MnO_3薄膜を含め,多様な物性の評価ができるものと確信している.
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