2012 Fiscal Year Annual Research Report
「生そのもの」としての「労動」の政治性-政治問題としての「過労死」・芸術・教育
Project/Area Number |
12J09818
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
濱本 真男 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ハンナ・アレント / 「政治的なもの」 / 「社会的なもの」 / 「過労死」 / 芸術 / 教育 / 統合教育 / 人種差別 |
Research Abstract |
本研究は、政治哲学者ハンナ・アレントによって提示されている「政治的なもの」と「社会的なもの」との区別に着目し、近代以降の政治問題が社会問題として扱われるようになった過程を辿りつつ、この過程に対応する逆の視座から、つまり近代以降の社会問題を政治的に検討することが目的であった。その上で、近代以降の社会問題に関連する三つの柱を立てた。「過労死」・芸術・教育である。 上述の三つの柱のうち、当該年度においては、教育についての研究が優先的になされた。教育を軸にしてアレント思想を捉え返すことは、彼女の思想的展開を明らかにするという意味でのアレント研究としての重要性を有している。この点については、教育を政治問題として検討する意義にも関わっており、以下に具体的な研究内容に触れる形でその概要を述べておく。 アレントは、統合教育を批判的に考察した論文(「リトルロックについての省察」)を記している。1959年の発表当時から、この論文に対しては、人種統合教育実施の法的強制を批判的に捉える立場が人種差別的であるという旨の批判的解釈が絶えなかった。1990年代の半ばに至り、ようやく「自覚的マイノリティ」という観点からの肯定的な解釈が打ち出されるようになる。ただし、この種の再解釈においても、先述の論文と(ほぼ同時期に記された主著)『人間の条件』との理論的整合性や当該論文が孕む政治的主張の含意が十分に汲み取られることはなかった。そこで本研究においては、アレントの統合教育批判の射程を単に人種問題にのみ収斂させるのではなく、同時期の一連の主著群で展開される問題の全体像、すなわち、政治問題の社会問題化の全体像へと接続させる手掛かりを探ることがその中身となった。 以上の研究内容は、一本の論文にまとめられ、立命館大学生存学研究センター編『生存学』Vol.6(2013年3月刊行)に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記研究課題の主題に関連して掲げた三つの柱(「過労死」・芸術・教育)のうち、教育についての研究には一定の成果があったが、残り二つの対象については今後の課題として残されている。ただし、この状況は、より厳密な文献研究の必要性に直面したことによる方向性の転換を伴ったものであり、単なる遅滞ではない。主題に対するアプローチの深化という点に鑑みると、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記研究課題の主題に関連して掲げた三つの柱(「過労死」・芸術・教育)のうち、「過労死」と芸術については今後の研究対象として残されている。ただし、これまでの研究成果を踏まえ、当該残された二つの研究対象にアプローチするよりも先に、これまで研究の手掛かりにしてきた政治哲学者ハンナ・アレント自身の思想的展開に即応した緻密な文献研究を遂行する必要があるとの認識に至った。また(この意味での)アレント研究として再構成する上で、先に述べた二つの研究対象の位置づけを(要/不要を含め)再検討する必要がある。
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