2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J09874
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
埋忠 美沙 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 日本学術振興会特別研究員(PD)
|
Keywords | 三代目桜田治助 / 『隅田川対高賀紋』 / 瞽女唄「鈴木主水」 / 「天保水滸伝」 / 河竹黙阿弥 / 『小袖曽我薊色縫』 / 正本写 / 歌舞伎台本 |
Research Abstract |
今年度は「正本写の研究」と「三代目桜田治助の研究」をおこなった。 「正本写の研究」については、カリフォルニア大学でおこなわれた日本文学のシンポジウムに参加、シンポジウムのテーマに則り、歌舞伎を本(正本写)にする際にいかなる書き替えがおこなわれるのかを発表した。これまでの研究成果を踏まえてその傾向を示したうえで、河竹黙阿弥作『小袖曽我薊色縫』を取りあげ正本写化の具体的な手法を明示した。そして正本写化に伴いなされた書き替えは自主規制といえる性格が強く、閉ざされた空間で限られた観客を対象とする歌舞伎(演劇)と、広く流通して不特定多数の読者を対象とする正本写(小説)というジャンルの特質に関わることを結論した。 「三代目桜田治助の研究」について述べる。治助は黙阿弥より約二十才年長で、天保から慶応にかけて江戸の劇壇で活躍した狂言作者である。従来の歌舞伎研究において、天保から嘉永の歌舞伎は低迷期とみなされほとんど研究されてこなかった。当時の歌舞伎を牽引したのが治助だが、こうした事情ゆえ作品の翻刻は少なく、作品研究もほとんどおこなわれていないことから、代表作『隅田川対高賀紋』の翻刻および作品研究をおこない、併せて本作の正本写合巻『春服対佳賀紋』の翻刻もおこなった。「天保水滸伝」と「鈴木主水」を取り込んでおり、これらを初めて歌舞伎に仕組んだ点で価値があることを指摘。そのうえで取材源の実録と比析して治助の作劇手法を分析するとともに、二つの説話の伝搬を示す重要な資料であることを指摘した。そして作品全体の傾向から治助の作劇手法について、細部まで構成が徹底されていないという欠点があるものの、音楽を効果的に用いた演出手法が優れていることを指摘した。そして音楽の効果やテレコの構造が、黙阿弥に影響を与えたことを結論した。台本と正本写の翻刻は、国立劇場調査養成部から出版している『未翻刻戯曲集』および『正本写合巻集』に収録し、広く一般に公開した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三代目桜田治助は、黙阿弥が活躍する以前の江戸劇壇を担った重要な狂言作者であるが、当時の歌舞伎が停滞期とみなされていたため、これまで研究されてこなかった。治助に着目して黙阿弥への影響を論じたことで、広い視野で幕末歌舞伎を論ずることが可能となった。また、歌舞伎と正本写の特色の違いを詳らかにし得たが、この成果は幕末歌舞伎の研究資料として正本写を活用するうえで大きな指針となる。以上の点から、概ね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
先述したごとく、本年度は大きく分けて二つの研究をおこない幕末歌舞伎研究を進展させた。今後は本年度の学会発表の成果を論文にまとめて、論点を整理すると共に、より広く成果を公開する。また最終年度であることから、歌舞伎史における黙阿弥の位置付けを明確にし、著書として黙阿弥論の出版を目指す。
|
Research Products
(3 results)
-
[Presentation] 歌舞伎の合巻「正本写」をめぐって―『小袖曽我薊色縫』を例に―2013
Author(s)
埋忠美沙
Organizer
「Japan Foundation Summer Institute [Histories of Japanese Book : Past, Present, Future」
Place of Presentation
University of California Santa Barbara, California, USA
Year and Date
2013-06-01
-
-