2012 Fiscal Year Annual Research Report
7-10世紀東地中海世界におけるビザンツ帝国の対外政策と地方統治制度の関係
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12J09933
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
仲田 公輔 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ビザンツ / イスラーム / マケドニア朝 / 軍事書 / アッバース朝 / 辺境 / 『タクティカ』 / レオン6世 |
Research Abstract |
本研究は、ビザンツ帝国が多方面からの対外的危機を受けていた7-10世紀を切り抜けるにあたり、それぞれの周辺勢力と関わる中で、辺境においてその軍制・地方統治制度をどのように運用したかを明らかにすることを目的としている。本年度はその足がかりとして対イスラーム方面の検討を中心に研究を進めた。 具体的には、イスラーム勢力が登場する7世紀以降の未だに論点が残る地方統治制度「テマ」形成過程とビザンツ側の動向ついて再考するとともに、並行してイスラーム側の諸勢力が分立する9-10世紀以降におけるビザンツ側の対応の新展開を明らかにすることにつとめた。 前者についてはギリシア語年代記やアラビア語歴史書、古典アルメニア語歴史書も導入した考察を行い、「テマ」 は後期ローマ期以来の制度がイスラーム勢力に対応する中で漸次的に形成されたとする通説を新たな視点から補強することができた。 後者については、ギリシア語年代記やアラビア語歴史書のほか、9-10世紀にビザンツ皇帝のもとで編纂された、軍事書を始めとする-連の編纂物も取り入れて考察を行った。その結果、イスラーム側の地方政権による小規模かつ恒常的な攻勢が展開する9世紀後半以降、ビザンツ側はこの東方に特有の状況に対応するため、対イスラーム戦のなかで台頭した地方の有力者層にある程度の自律性を付与する辺境政策を採っていたことが明らかとなり、また皇帝レオン6世(在位886-912年)のもとで編纂された軍事書『タクティカ』からは、中央の皇帝もこの現実的な対応策を容認していたことが示された。即ちビザンツ帝国の対外政策の、それぞれの方面の独自の情勢にあわせた柔軟性の一端が明らかとなったのである。 またその過程でビザンツの対外観を知る上での10世紀の編纂物の有用性が示され、とくに最重要史料の一つである『帝国統治論』については名古屋大学文学研究科の村田光司氏と共同で日本語訳を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究に関連する基礎的な一次史料・二次文献は十分に収集することができた。その分析も概ね順調に進行し、検討を予定していたギリシア語年代記・軍事書、アラビア語歴史書等の史料から十分なデータを収集できた。また、それらについての考察を経て十分に新規性を持つ成果も得ることができ、東方辺境方面の独自の事情に適合するかたちでのビザンツ帝国による地方統治制度の柔軟な運用についての新規性のある結論を出すこもができた。研究成果の発信についても学会発表や論文投稿を通して予定通りに行うことができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に計画に沿って研究を推進し、対イスラーム方面に関する未検討の史料を分析するとともに、並行して対西方関係、すなわちブルガリア・バルカン方面との関係についての考察を進めていく。対イスラーム関係については、軍事的側面以外の部分に積み残しがあるため、そちらを中心に検討したい。そして三年目は北方の対キエフ・ルーシ関係についての研究を行い、総まとめとしてそれぞれの方面の比較検討を行う。 加えて新たにサブ・テーマとして9-10世紀ビザンツにおける軍事書・歴史書といった編纂物についての史料論的研究を行いたいと考えている。これらの書物はビザンツ側がどのように周辺世界を観測し、どのように関わることを志向していたかについての重要史料となりうるが、考察に用いるためには、先行研究の検討が不十分な史料自体の性質、即ちこれらの書物がどのような立場からどのような意図で作成されたかを明確にしておかなければならないからである。
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Research Products
(4 results)